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寄稿 藤井太洋(作家)

 「日本旅行が始まるよ」

 テキサスに住む友人のゲーム作家、パブロ・バスケスの一言がフェイスブックに流れたのは2月25日のことだった。

ふじい・たいよう 1971年、鹿児島県出身。2015年『オービタル・クラウド』で日本SF大賞、19年『ハロー・ワールド』で吉川英治文学新人賞。

 彼とは、中国・成都市が主催した国際SF大会で親しくなった。日本旅行を予定していたことは聞いていたが、まさか新型コロナウイルスがいち早く広まっているこの時期に来日するとは思ってもいなかった。

拡大する写真・図版居酒屋などの飲食店がひしめき合う東京・歌舞伎町。人の姿は少なく閑散としていた=2020年4月8日午後5時47分、東京都新宿区、嶋田達也撮影

 ライブなどの催し物を避けるようになってきた頃だ。博物館などの施設が閉まるのも時間の問題だった。

 何より彼自身、帰国できるかどうかもわからない状況だった。「壁」を建てると言い張って権力を得たトランプ大統領が、どこかの時点で入国規制を始めるのは確実だった。

 とにかく私はパブロをランチに誘い、飯田橋駅へと向かった。いつもの半分ぐらいの人出の坂を下ると、花をラペルに挿したセットアップ姿の彼が両腕を広げて待ち構えていた。短軀(たんく)のパブロは、下から抱きあげるようなハグを好むのだ。

 私は一瞬だけ迷った。アメリカからやってきたばかりの彼や、ほとんど誰とも会わない私が感染している可能性は低い。だけどここはパンデミックが起ころうとしている街だ。

 いいのか? と、聞いた私はそ…

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