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 「ヒーロー」は、ひざをつき、うめきながら泣いていた。

 赤い鎧(よろい)をまとい、腰には変身用のベルト。りりしい姿と裏腹に、守ると決めた人を敵にさらわれて、こぶしを地面にたたきつけた。

 2018年の冬。宮城県石巻市のホールで、ステージを400人が見つめていた。「がんばれー!」と叫び続けていた子どもたちが一瞬静まりかえる。再び助けに向かおうとするヒーローを、かたずをのんで見つめた。

拡大する写真・図版男性が「変身」したヒーローは、いつも子どもたちに囲まれている=2019年12月9日、仙台市宮城野区

 仮面の下で、男性(57)は本当に涙ぐんでいた。

 うちのめされても、はい上がる。その姿が、これまでの自分と重なった。

 11年の春。東日本大震災から1カ月がたったころ、経営する企画制作会社で、電話を受けた。

 「子どもたちがヒーローに会いたがっている。慰問してもらえないか」

 避難所に身を寄せている人からの依頼だった。テレビの特撮ヒーローを呼んでショーを企画していた会社だと知り、連絡してきたらしい。頼まれた日付は、3週間後の5月5日。「こどもの日」だった。

 昔のつてを頼ったが、無償での出演は断られた。でも、なんとかしたかった。

 海沿いの女川町にあった営業所は津波にさらわれ、友人も犠牲になった。ひとりになると涙があふれた。大人の自分でも不安でたまらない。子どもたちの我慢はどれほどか。

 仲間の言葉に背を押され、自分がヒーローに「変身」しよう、と決めた。

 約束の5月5日には間に合わなかった。依頼主に再び連絡がつかないまま、その日は過ぎた。

 仲間と新たなヒーローを生み出せたのは半年後だ。「立ち上がる」を意味する英語の「ライズ」から、「破牙神(ばきしん)ライザー龍」と名づけた。幼い頃にあこがれたヒーローのように、かっこよく。たるんだおなかは20キロの減量でひっこめた。

拡大する写真・図版子どもたちにポーズを決めてみせるヒーロー=2019年12月9日、仙台市宮城野区

 ヒーローとして被災地を巡る日々。やがて、女川の街からがれきの山が消え、駅前には新しい店が立ち並んだ。

 年に1度の特別公演を前に、一緒に演じる仲間が言った。「舞台でもっと、何かを伝えられないだろうか」。ヒーローが伝えるのは「勇気」や「希望」だけだろうか、と。

 仲間の多くも、あのとき被災した。みんなで思いを出し合った。「あきらめずがんばるけど、逃げる時もあっていいよね」「ヒーローだって泣くこともあるはず。その姿も見せたい」

拡大する写真・図版男性が「変身」したヒーローに笑顔の子どもたち=2019年12月9日、仙台市宮城野区

 何度でも立ち上がり、何度でも立ち向かう。だけど、泣いてもいいんだよ。

 「絶対にかなわないものを目の当たりにした、僕たちがそうだったから」

 怖さも悔しさも隠さない。石巻のステージで、ヒーローの姿は変わった。

拡大する写真・図版ヒーロー姿の男性は、訪問先の幼稚園で子どもたちと一緒に写真撮影にも応じる=2019年12月9日、仙台市宮城野区

 今も被災地の幼稚園や保育園を無償で回り、防災の大切さを教える。

 つらいことがあった時、ヒーローが流す涙を、きっと思い出してくれるはず。仮面の下で、そう願う。(川野由起)