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 4月25日にあったテレビ電話集会。全国の福祉関係者や医療従事者ら約90人がやりとりに注目していた。

 「なぜ集団感染が起きた施設での療養を決めたのか」「どのように保護者に情報を開示していたのか」。質問は途切れることがなかった。

 知的障害者が暮らす北総育成園(千葉県東庄町)で発生した新型コロナウイルスの集団感染。その現状や課題の共有などを目的に、インターネットで参加者を募ると、数日で定員の100人に。「予想外の反応」(主催者)で、関心の高さがうかがえた。

 集会は熱を帯び、終了予定を1時間近く過ぎた頃だった。園の運営に携わる社会福祉法人の側面支援を続け、この日の報告・提言役を務めた淑徳大の松浦俊弥教授(特別支援教育・障害児福祉)が訴えた。「今後同じようなことが起きた時の一つの典型例になる。私たちがこの経験を共有しながら(実際に集団感染が)起きたらこうしようというのを、今から作っていくしかない」

 念頭にあったのは、2011年の東日本大震災の記憶だ。被災した障害者施設などが大変な目に遭ったことを機に、災害時の福祉支援のあり方が長年気がかりだった。

   ◇   ◇

 松浦さんは、園の集団感染が報道された3月28日以降、運営に携わる関係者らとメールや電話で連絡を取り合った。

 元特別支援学校教諭。その経験から、環境の変化で知的障害者がパニックを起こすなどの懸念がぬぐえなかった。断続的に入る情報に心を痛めながら、自らできることを考えた。

 「特設サイトを作って、支援の呼びかけができないか」。知人で障害児支援サービス事業「マイルストーン」(四街道市)を手がける後藤裕紀さん(38)に相談を持ちかけた。

 三男(7)に発達障害があり、障害者施設の大切さを普段から感じていた後藤さん。集団感染の報道に「何かできないか」と考えていたこともあり、二つ返事で引き受けた。

 松浦さんが関係者から食料不足を訴える「SOS」を受けると、2人は早速4月5日、マイルストーンのホームページに、園への生活物資を受け付ける特設サイト「ささえあいプロジェクト」を開設した。

 松浦さんはゼリー60食、みそ汁144食、スープ60食を自ら支援。福祉関係者や医師らにもメールで支援を求めた。

 「のどごしのよい柔らかいゼリーを用意したいと思っていたので大変助かりました」。園からはこんなお礼のメールが届いた。

 松浦さんは思わず涙した。「入所者は自分の身に何が起きているかもよくわかっていない可能性があり、突然食事が変わったり介助者が変わったりして不安やストレスが高まる中、甘い物を喜んで笑顔で食べる姿を思い浮かべました」

   ◇   ◇

 北総育成園の出来事をきっかけに始まった支援の輪は、全国に広がりを見せている。

 ささえあいプロジェクトは支援を必要とする福祉施設を募集している。加えて4月30日にはマイルストーンのホームページで、物資などを支援するクラウドファンディングを始めた。対象はコロナ禍で困窮する全国の福祉施設だ。

 6月14日までの期間限定で、目標金額は30万円。集まった資金は支援物資の購入費や配達費に充てる。余った分は被害施設に送る介護用品や食料品の購入費などにまわす。

 後藤さんは「施設が滞りなく運営されていくために、私たちが非常事態にできることは側面支援。これからも施設の相談窓口として、また支援の受付窓口として、迅速に情報を発信するプラットフォームを目指したい」。

 松浦さんは災害などの非常時に福祉施設の救援にあたる「災害派遣福祉チーム(DWAT(ディーワット))」について国レベルや県の早期立ち上げを求めている。そのうえでこう強調する。「施設の内情を知ってもらい、それが共感を呼び、支援が広がったことに感動している。今後、同様の集団感染は起きるだろう。事前に支援体制を構築しておくことが何より大切だ」(多田晃子)