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知りたい民間療法(3)

 「健康食品は食品だから安全」

 「天然素材だから体に優しい」

 そんなイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。

 実際、「自然派」「天然素材」「ナチュラル」といったキャッチコピーを見たことがあると思います。果たして、本当に「自然」「天然」のものは安全なのでしょうか?

 今回は、補完代替療法(民間療法)を利用するにあたって、気をつけておいて欲しい点を解説します。

補完代替療法は本当に体に優しいのか?

 『健康食品で健康被害』

 ダジャレのように受け取る人もいるかもれませんが、実は皆さんが想像している以上に健康食品による健康被害は報告されています(1)。

 また、医師のなかには「補完代替療法は、効果はないけど副作用もないから、患者が希望するなら自由に任せればいいのでは」と認識している人もいるようです。

 しかし、病気で治療中の人の場合、健康食品による健康被害だけでなく、健康食品が治療のために服用している薬の効果に悪影響を及ぼす危険性(相互作用)についても気を配る必要があります。ですので、病気の治療で薬をのんでいる人は、健康食品を利用する前に、医師だけでなく薬剤師にも相談して、本当に利用しても大丈夫かどうかを必ず確認してほしいと思います。

 なお、健康食品だけでなく、鍼灸(しんきゅう)、アロマテラピー、ヨガなどのさまざまな施術・療法において、健康被害(副作用)はゼロではありませんし、やってはいけない人・やるのを控えた方がいい人がいます。

 ここで覚えておいてほしいのは、「自然・天然ということは安全を保証している言葉ではない」ということです。

つい見過ごされがちな「お金の問題」

 補完代替療法(民間療法)は、健康保険の対象外です。言い換えると、施術・療法の利用にかかる料金は全額自己負担ということになります。

 いくら以上だとダメで、いくら未満だったら大丈夫、と線引きできるわけではありません。しかし、お金にまつわる問題は安易に構えていると、気がついたときには身動きができなくなることにもなりかねません。

 実は、国民生活センターのデータベース(2)で、健康食品や健康器具のトラブル内容を調べると、商品そのものによる健康被害よりも、契約や請求などの経済的トラブルの件数が多い現状があります。具体的には、次のような事案があります。

 「定期購入でお試し価格のダイエットサプリメントを注文した。いつでも解約できると記載があったので解約を申し出ると、高額な解約料を請求された。」

 「電話で健康食品を勧められたが、電話を切った。後日自宅に注文していない商品が届いた」

 「痩身(そうしん)エステを契約後、施術に行くたびに脱毛エステや美容機器を次々と勧められた」

 もうひとつ、お金について気をつけておいて欲しいことがあります。

 「高額な治療であれば効果も高いはず」。そう思っている人は少なくないかもしれません。実際、家電製品や自動車などは金額が高ければ高いほど高機能・高性能であることは、身の回りのこととして肌で感じているかと思います。しかし、医学・医療の分野では、必ずしも高額な治療の方が効果も高いというわけではありません。

 「高額な治療」について、さらに知っておいてほしいことがあります。

 一度、高額な治療を始めてしまうと、その後、効果に疑問を持ったとしても、それまでにかかった治療費を無駄にしたくない一心で、「効いているはず」と思い込もうとする心理が働いてしまいます。経済学の分野で「サンクコストの呪縛」という用語があります。簡単に言うと「もったいないから、やめられない」になります。これは、人であれば誰にでも起こりうることです。

 つまり、高額な治療を始めてしまうと、効果に疑問を持っていても、やめるにやめられない。そんなアリ地獄のようなわなにはまってしまうリスクがあるわけです。

 ですので、興味・関心をもった施術・療法あるいは自由診療の治療について、『始める前』に、「それをしようとする目的は何か?」「目的を達成するための裏付け(臨床試験などの結果=エビデンス)はあるのか?」「エビデンスがあったとしても、それは金額に見合うものか?」など、さまざまな角度から注意深く見極めて、冷静に判断することが重要です。

命に関わる近づいてはいけない補完代替療法

 「抗がん剤は毒である」

 「手術は体を切り刻む野蛮な治療」

 インターネットで検索すると、こんな極論情報が真実であるかのように書かれているものがあります。

 また、「抗がん剤を受けてはいけない」「ステロイドは危険」など、病院で行われている西洋医学を否定する書籍が、書店で平積みされていることもあります。さらには、医者と製薬企業は患者を食い物にしているといった陰謀論めいたものまで……。

 そして、これら極論・陰謀論とセット販売かのように補完代替療法(民間療法)がお勧めされていることがあります。

 確かに、薬には副作用はつきものですし、手術の合併症はゼロではありません。ですが、そこだけに注目してしまうと、「木を見て森を見ず」になりかねません。

 医学の進歩、臨床試験の積み重ねによって、副作用や合併症のことを考慮しても、それを上回るメリットがあることが確認されている治療(一般的に「標準治療」といいます)が病院では行われています。

 極論・陰謀論の情報に振り回されてしまい、病院で治療を受けるタイミングが遅くなってしまうと、本来、標準治療を受けていれば得られていたかもしれないメリットを手に入れることができなくなることになりかねません。

 これは突き詰めていくと命にも関わる問題です。もし、西洋医学を否定している補完代替療法があったら、絶対に近づいてはいけません。

 今回、お伝えした補完代替療法に関する問題点や注意すべきポイントは次の3点です。

拡大する写真・図版補完代替療法の問題点

 もし、ご自身が、あるいは家族や友人が、補完代替療法に関心を持ったとき、判断材料の一つとして参考になれば幸いです。

[参考資料]

1)「健康食品」の安全性・有効性情報:被害関連情報(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/index.php別ウインドウで開きます

2)独立行政法人国民生活センター:PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)http://datafile.kokusen.go.jp/別ウインドウで開きます

大野智

大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、日本緩和医療学会ガイドライン統括委員(補完代替療法分野担当)も務める。