【動画】マスクはどうやって作られるのか=波多野大介撮影
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皆さんの身近な困りごとや疑問をSNSで募集中。「#N4U」取材班が深掘りします。

 マスクはどこへ――。暮らしの困り事や疑問を募って記事にする「#ニュース4U」には、マスク不足に悩む人たちからの投稿が続々と寄せられている。新型コロナウイルスの感染拡大で、増産分は医療機関などに優先的に配布。店頭に並んでも争奪戦で、あっという間に消えてしまう。取材班はマスクを追って、生産現場に向かった。

できたての生産ライン

 残雪の山肌が美しい剱岳(つるぎだけ)を望む富山県上市町。ビール工場などで使われる産業用の濾過(ろか)フィルターの製造大手「ロキテクノ」(東京)は今春、この創業の地にマスクの生産ラインを新設した。

 4月中旬、試験生産を7日に始めたばかりの工場を訪ねた。カシャコン、カシャコン……。機械音が響く屋内で目に飛び込んできたのは大きなロール状の不織布。縦9・5センチ、横17・5センチの大人用サイズに切断され、プリーツ(折りひだ)加工を施す。フィルターを装着した三層構造のマスクが1枚ずつベルトコンベヤーに乗って流れてくる。

拡大する写真・図版不織布に折りひだや耳ひもを付ける作業がすべて自動で施される=2020年4月15日午後、富山県上市町、波多野大介撮影

フル稼働で月90万枚

 防塵服(ぼうじんふく)に身を包んだ担当者が、耳ひもの付き具合などマスクの形に目を配る。「不良品が出ないよう、5月の本生産に向けて設備の調整を続けます」。大型連休明けから月5万枚を生産する予定で、2レーンをフル稼働すれば月90万枚まで増産できるという。

 新型コロナの感染拡大による深刻なマスク不足で、ロキテクノは今年3月、経済産業省のマスク増産に向けた補助事業者に採択された。久世正俊・北陸事業所長は「マスク生産に適した環境や条件がそろっていた」。同社にはフィルター製造で使用している細かなホコリや雑菌などを防ぐ空間「クリーンルーム」があり、素材となる不織布の取り扱いにも知見がある。

拡大する写真・図版できあがったばかりのマスクの試作品を、担当者が手に取って見せてくれた=2020年4月15日、富山県上市町、波多野大介撮影

 また、同社でも工場の従業員向けにマスクが月1万枚ほど必要で、4月末には備蓄が尽きるという背に腹は代えられない事情もあった。「ちょうど試作品ができる時期と重なり、助かった」と久世所長は話す。

国の公募に続々と名乗り

 不織布は取引先の三井化学(東京)から確保し、生産設備は経産省の仲介でナカンテクノ(千葉)から購入。投資額は約4千万円で、2360万円の補助を受けるという。商品はグループ会社の通販サイトで販売されるという。

 公募には3月までに国内の13事業者(共同体を含む)が応じ、不織布やポリウレタンなどのマスク計約8千万枚を増産できる能力を備えることになった。既存のメーカーは増産分を出荷しているが、異業種からの参入組の多くは5月以降の本格生産となる。

シャープも販売、でもアクセス殺到で…

 そんな中、公募に応じて新規参入した大手家電メーカーのシャープ(大阪)はいち早く3月下旬から、三重県多気町の工場で生産を始めている。液晶パネルを製造するクリーンルームの空きスペースを活用。親会社の鴻海(ホンハイ)精密工業(台湾)が2月からマスク生産を開始しており、技術的な支援を受けて生産を始めた。

拡大する写真・図版シャープが販売を始めた自社生産の不織布マスク(同社提供)

 1日15万枚の生産で、今後は1日50万枚の生産を目指す。政府が買い取り、医療機関に配布してきたが、4月21日からは自社サイトで販売を始めた。しかし、アクセスが殺到し、22日から販売を一時休止。27日から抽選販売に切り替えた。

経産省の見通しは?

 経産省などによると、国内のマスク供給量は2018年度に55億枚で、国産はわずか2割の11億枚。大半は中国産だ。中国からの輸入は徐々に再開し、国内の増産分も合わせて3月の国内供給量は約6億枚で、4月は7億枚以上を見込んでいるという。18年度の月平均4・6億枚の1・5倍になるが、まだ需要が大きく上回っている。

拡大する写真・図版緊急事態宣言から一夜明け、新宿駅からマスク姿で職場へと向かう人たち=2020年4月8日午前8時27分、東京都新宿区、山本裕之撮影

 増産したマスクの流通先はネット通販が多く、大手通販サイトを見ると、予約販売などで1箱(50枚入り)3千~5千円で手に入るようにはなってきた。さらにパナソニック(大阪)などクリーンルームを保有する製造業が参入する意向を示している。

 経産省の担当者は「出荷先は事業者に任せている。医療機関用の政府調達(買い上げ)分があるが、市場にもすでに出回っており、5月以降はさらに増えていく見通しだ」と説明する。

作りたいけど…メーカーが二の足踏む事情

 ただ今のところ、医療施設に直接提供する企業もあって、ドラッグストアやコンビニなどの店頭には急速に増えていない。ニュース4Uには「マスクが不足しているのなら、各地に生産工場を造れないのか」という意見も寄せられた。

拡大する写真・図版大阪市内の薬局には、日本語と英語、中国語でマスクの品切れを示す紙が貼ってあった(画像の一部を加工しています)=2020年3月19日

 国内で新たに参入しようとすると、いくつもハードルがある。クリーンルームのような衛生環境に加え、マスクを生産する装置が必要になる。東海地方にあるマスク製造機器メーカーでは「製造能力が限界に達している」として、納入まで「2年待ち」という。さらに、マスクのフィルター機能を担う「メルトブロー不織布」も中国で10倍以上に価格が高騰。材料の調達コストもかさんでいる。

 加えて、新型コロナによる需要が落ち着いた後、マスク生産量が「余剰」となる懸念が二の足を踏ませる。ロキテクノ北陸事業所の久世所長は「生産環境の条件が合って補助金がなければ、とても参入できなかった。終息後は自社使用分を中心に生産を継続したい」。シャープの広報担当者は「将来の生産については未定」と話す。

 経産省は「国内生産への回帰を進める」との方針で、4、5月も生産設備導入の補助対象事業者を公募している。

もう不織布には頼らない 新素材のマスクたち

 そんな中、今までにない素材のマスクが次々と登場している。量産こそできないが、新型コロナ禍が「マスクは使い捨て」という意識を変えつつある。

 ゴム素材メーカーの山本化学工業(大阪)は、競技用水着(ウェットスーツ)用の合成ゴムで作る。0・5ミリと薄く、人間の皮膚のような柔軟性がある素材。ガーゼやティッシュなどを鼻と口にあたる部分に挟み、顔に密着させる。小さな穴があって息苦しくない。簡単に洗えて耐久性も高く、数年は使えるという。

拡大する写真・図版山本化学工業が開発したウェットスーツに使う合成ゴム製のマスク=大阪市生野区

 医療機関からの問い合わせもあり、山本富造社長は「密封性が良く、感染リスクを相当抑えられるはず」と機能性に自信を持つ。

 靴下用のニット素材を活用するのは、ラグビー日本代表のソックスを手がけたタイコー(長野)。編み機を使った独特の立体構造で伸縮性がある。「ものづくりの繊維メーカーとして少しでも役に立ちたい」とマスクの商品化を決めた。4月上旬に「アミマスク」として2千枚をネット販売すると、10分で完売。新型コロナの終息が見えない中、生産を再開する予定だ。

拡大する写真・図版靴下を編む機械で作った「アミマスク」(「タイコー」提供)

肌触りや「色落ち」楽しむ時代に?

 オーダーカーテン専門店のディマンシェ(岐阜)は、カーテン用の生地として使う滋賀県の地域ブランド「近江の麻」でマスクを作る。手触りがよく肌になじむ着用感が特徴で、夏は涼しく冬は暖かいという。

拡大する写真・図版オーダーカーテン専門店「ディマンシェ」が作った布マスク。素材は麻で、柔らかくなじみやすい(ディマンシェ提供)

 じぃんず工房大方(高知)が作ったのは「デニムマスク」。筒状にして抗菌シートを挟み込めるようにした。飛沫(ひまつ)を防ぐなど自己防衛のために使ってほしいという。1枚ずつミシンで縫い、1日に600~800枚を生産している。担当者は「ジーンズを作る技術が少しでも役に立てたら。洗うたびに味が出て色の変化を楽しめます」と話す。

拡大する写真・図版デニム生地で作ったマスク(「じぃんず工房大方」提供)

 自慢の素材を活用したマスクには、日本のものづくり企業の「心意気」が詰まっている。(波多野大介、小林太一)

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