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 大津市の交差点で昨年5月、車同士がぶつかり、巻き添えで散歩中の保育園児2人が死亡、園児と保育士計14人が重軽傷を負った事故から8日で1年になる。重傷となって2カ月余り入院した女児(4)の父親が代理人の弁護士を通して報道各社の取材に文書で応じ、心境をつづった。すべての運転者に「もしかしたらを常に考えて」と強く訴えた。

 入院は事故当日から約70日間でした。入院中、娘はギプスをつけて、思うように動けないストレスを爆発させるようになりました。骨盤にひびが入り、看護師からなるべく動かさないように言われているので、抱き上げることもできず、妻や大好きな祖母でも落ち着かせることができない状態でした。

 看護に追われて眠れず、事故のことを顧みる余裕もありませんでした。勤め先の会社に事故のことを伝えたら、寛大に対応してもらえました。しかし、いつまでも仕事を休み続けるわけにもいかず、気持ちの落ち着かないまま無理やりにでも生活をしていかなくてはなりませんでした。

 現在は、元気に走り回る姿も見せてくれます。しかし、少し歩いただけで「足が痛い」としゃがみ込んだり、何かの拍子に突然「もうギプス取れた」と言ったり、入院中の体験を口にします。スーパーの駐車場で親に「手、つなぐ」と言ったり、安全な歩道を歩いている時に「ここはプップ(自動車)来ない」と言ったり、事故に遭ったことをほのめかす言動も時々あります。

恐怖消える日、来ないかも

 身体的なダメージもありましたが、性格が臆病になってしまいました。本当なら、本来の性格のままで、成長していって欲しいと思っていました。3~4歳ごろというのは、物事の捉え方などが劇的に変化していく時期ではありますが、事故後、私たち両親の思わぬ方向へ変わっていったのは確かです。

 今年1月、後遺症の心配は少ないと医師から診断されましたが、これから成長していくにあたり、事故の影響がいつ、どういった形で現れるのかは、はっきりとはわからない状態です。

 私たち両親にも交通事故の恐怖が強くつきまとっています。外出時に車通りの少ない場所を選ぶなど、神経質にならざるを得ません。恐怖が消える日は、来ないかもしれません。

 判決の日、被告は「どんな判決も受け入れる」と言っていたのに、後日控訴を申し立て、うそだったのかと、心底、裏切られた気持ちでした。控訴は取り下げられましたが、判決が確定するまで、被告に振り回された結果となりました。私たちにとっては、これで終わりではないと思っています。

「もう傍観者ではない」

 被害の甚大さに対し、その後を伝える者が少ない現状は、とても不安で、そのまま風化していくことを恐れています。

 集団登校中の小学生の列に車が突っ込んだ2012年の京都府亀岡市での交通事故遺族の方々と、昨年9月にお会いしました。今回の取材に踏み出したのも、この方々からお話を聞かせていただいたことが大きな理由です。

 実際に自分の身に降りかかるまでは「ニュースの中の出来事」でした。もし家族が交通事故に巻き込まれたら……など、考えたこともなく、想像もしませんでした。しかし、日本のどこかで、毎日のように事故は起き、その件数以上に、傷ついた人がいます。その事実を知り、私にも何かできることがあるはずだと思うようになりました。「もう傍観者ではない」と強く思いました。

 事故後、すぐに現場の交差点に防護柵が設置されたのは迅速な対応だと感じました。スクールゾーンの見直しや道路の整備など、行政をはじめとする様々な人の思いや、活動があることを知りました。こういった対策のおかげで防がれる事故があるのは確かだと思います。

 しかし、歩道と車道の区別があまりないような、危険な道も多い。この1年間で、安全になったとはいえないと思います。

 実際に事故が起こってからしか危険を認識できないのは、もどかしい。事故で傷ついた者たちが声を上げないと何もできないのは、おかしいと思います。もっと広い視野で整備していただきたい。

運転する人たちへ

 運転をする人には、時間の余裕を持ってほしいと思います。時間に追われ、スピードを出して運転している時は、突然の危機にも対応できず、衝突してしまう確率が高くなります。

 「もしかしたら」ということを常に考えながら運転するのがドライバーの義務であり、責任だと思っています。運転免許を持っているなら、教習所で習っているはずです。そんな当たり前のことすら忘れてしまうような人なら、運転してはいけないと思います。

 ハンドルを握る際に考えてみて下さい。身勝手で無責任な運転をした末に、取り返しのつかない事故が起こってしまったら。その傷の痛み、悲しみは、事故の被害者だけではなく、被害者の親族、その周りの人たちにまで及んでしまいます。同じように、自分の家族や、友人、周りの人たちにもです。

 安全に運転できる「能力」と「責任」がなければ、運転するのをやめて下さい。自分に「能力」と「責任」があるのかわからない時は、わかる人に聞いて下さい。わからないまま運転するのは、絶対にやめて下さい。

 想像して下さい。決して癒えることはない、被害者の心の傷の痛み、悲しみを背負う覚悟が、あなたにありますか。(構成・新谷千布美)

5月8日を「いのち・安全の日」に

 大津市の交差点で昨年5月、車同士がぶつかり、巻き添えで散歩中の園児2人が死亡、園児と保育士計14人が重軽傷を負った事故から8日で1年。園児らが通っていたレイモンド淡海(おうみ)保育園(大津市)を運営する社会福祉法人「檸檬(れもん)会」(和歌山県紀の川市)は7日、事故が起きた毎年5月8日を「いのち・安全の日」と定め、園児の散歩コースの安全点検などを実施する、とホームページで明らかにした。

 前田効多郎理事長名で談話を公表。「私たちにできることは、亡くなった命や事故のことを決して忘れず風化させないこと」とつづり、すべてのドライバーに「悲しい事故を二度と起こさないためにも、細心の注意を払って安全運転に努めてほしい」と求めた。

 法人によると、安全点検は10都府県で運営する保育園など全58施設で実施する。また、毎年5月を救急訓練月間とし、園外でのけがなどを想定した初動対応を学ぶという。

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 <大津園児死傷事故> 大津市大萱(おおがや)6丁目の県道交差点で昨年5月8日午前、右折車と直進車がぶつかり、はずみで直進車が歩道上で信号待ちをしていた保育園児の列に突っ込んだ。園児2人が死亡し、園児と保育士計14人が重軽傷を負った。大津地検は右折車側に過失があったとして、運転手を自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)で起訴。大津地裁は2月、別事件とあわせて禁錮4年6カ月の判決を言い渡し、確定した。