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 「三谷幸喜のありふれた生活」特別編の小説「一瞬の過ち」。お待たせしました。5月14日夕刊(15日朝刊の地域もあります)に第2回が掲載されます。いよいよ、古畑任三郎が登場します。

 映画の完成披露試写会の控室になっていたホテルで、脚本家の三谷が俳優の大泉妙を手製の銃で撃った--。この1回目を読んで寄せられたメールの一部をご紹介しましょう。

○埼玉県 yumemiさん

 今回の企画「一瞬の過ち」第1回、大変面白く拝読しました。毎回の三谷さんの日常がほんのりうかがえるエッセイも楽しませて頂いていますが、こういう企画だとやはりミステリ好きの血(?)が騒ぎます。

 三谷さんの筆で(パソコンで、というべきでしょうか)再び古畑任三郎に会える時が訪れようとは!(本当はこの感嘆符は無限倍にして読んで頂きたいところです)

 ……といっても現時点ではまだ古畑さんにお目にかかれてはいないのですが。

 第1回を3回ほど読み返してみましたが、脳内に「大泉洋さん演じる大泉妙さん」が再生されるだけで、まだ過ちには気づけていません。もちろん脚本家は三谷幸喜さんが脳内で演じています。

 第2回・第3回・第4回を心待ちにしています。

○青森県 コリコさん

 古畑任三郎の復活、ありがとうございます。

 朝日新聞を同僚と楽しく読み、朝のひと笑いを頂きました(余談ですが…私の部署はテレワークできない環境です)。

読んでいくと、被害者が「大泉」という名だけになるので、ほぼあの俳優さんしか頭に浮かびません。

今回の犯人の脚本家の「怒りの沸点の低さ」にはじめは共感できませんでしたが、大泉妙の【イライラの貯金】が満期になったのだなと、1話読み終わった時点で同情になりました。

     ◇

 他にも、被害者の名前に「爆笑」とつづるメールを多くいただきました。「アナと雪の女王」のDVDを持ち主の脚本家より先に観(み)たばっかりに殺されてしまった気の毒な人なのに。彼は「妙さん」です。「洋さん」でありませんので、念のため。

犯人役、豪華な俳優たち

 ドラマ「古畑任三郎」では毎回、豪華な俳優たちが犯人役を務めてきました。

 その中でも、とびきり異色の犯人といえば、2006年1月に放送された「ファイナル」の2夜目に登場したイチローさんでしょう。現役メジャーリーガーが「本人役」で登場したのですから。

 この時の様子を三谷さんは、05年11月掲載の「ありふれた生活」で、こう振り返っています。(以下、【 】内は元の原稿からの引用です)

 イチローさんのゲスト出演が決まったのはその年の初め。実はイチローさんは古畑シリーズの大ファンでした。神戸のホテルで顔を合わせた三谷さんは、イチローさんがドラマの内容に、あまりに詳しいことに驚き、せりふの読み合わせをしてみて、役者としての勘が良いことに舌を巻きます。

 イチローさんからは、こんな質問が。

 【僕に会ったらどうしても聞きたいことがあったと言われた。「○○の回の台詞(せりふ)で、日本語として不自然な箇所(かしょ)があるが、あれはどういう意味なのですか」。実を言うとそれは僕の単純ミスで、言葉の使い方を間違えただけ。スタッフも気づかず、僕はオンエアを観て「うわっ間違えた!」と焦ったけど、その後誰にも指摘されないので、まあいいやと忘れる事にしていた箇所であった。さすが世界のイチロー。もの凄(すご)いところを突いてくる。「深い意味はありません、ただのミスです」と答えると、ちょっと淋(さび)しそうな顔をしていた】

 イチローさんが演じるのだから、役はやはり野球選手がいいだろうと三谷さんは考えていました。イチローさんの考えも同じです。

 【とは言っても、殺人を犯して最後は捕まる設定だから、さすがに「イチロー」本人ではまずいと思い、せめて「ハチロー」くらいにしておきませんかと提案したら、彼は首を横に振った。「ハチロー」だとつまらない、イチローが「イチロー」を演じるからこそ面白いのではないか。確かにその通りだった】

 というわけでイチロー本人が事件を起こすことになりました。脚本を書くにあたって、イチローさんが出した希望は一つだけ。

 それは【たとえ劇中であってもフェアプレーを重んじる男でありたい、ということ。実はこの要望、数は一つでも、難易度はかなり高い。なにしろ犯人役である。フェアプレーな犯罪って、一体どんな犯罪なのだ】。

 それから三谷さんが半年かけて、悩みに悩んで書き上げたのが「フェアな殺人者」です。

     ◇

 「フェアな殺人者」が放送されたのは06年1月4日です。

 その前日は三谷さんにとって、実に悩ましい夜でした。

 この日、午後9時からNHKで大河ドラマの続編「新選組!!~土方歳三最期の一日」がオンエアされ、その30分後にフジ系で「古畑任三郎ファイナル」の第1夜が始まったからです。完全に重なっています。両局のスタッフが調整しようと努力したけれど、どうしてもうまくいかなかったのだそうです。

 この時の気持ちを三谷さんは、前の年の末に掲載された「ありふれた生活」でこうつづっています。

 【自分の作品同士で視聴率を取り合うというのは、作者としてとても哀(かな)しい。作品はどれも苦労して育てたわが子みたいなもの。争って欲しくはない。一皿のカレーライスを前に、長男と次男が大喧嘩(おおげんか)しているのを、黙って見ているしかない父親のような気持ちだ】

 一方を見て、もう一方を録画する、なんてことはできません。

 作者はこう予告しました。

 【というわけでその日、僕は九時まで細木数子さんを見て、それから犬の散歩に出ます】

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 今回ご紹介したエピソードは単行本『三谷幸喜のありふれた生活5 有頂天時代』(朝日新聞出版)に収録されています。

 この特集記事は続きます。

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