美術家・横尾忠則さん寄稿 コロナ苦境から生まれる絵画
美術家・横尾忠則さん寄稿
新型コロナウイルスが世界に拡大しているとWHOが緊急事態を宣言したのは今年の1月31日だった。その翌日「兵庫県立横尾救急病院展」と題する展覧会が神戸の横尾忠則現代美術館で始まったが、本企画が決定したのは武漢で発生する1年前だった。
展覧会のオープニングの来客全員にマスクを配布して装着してもらった。主催者や美術館の職員らは白衣とマスクでコスプレ、大がかりな演劇的パフォーマンスを演出した。150人以上のマスク集団は誰も見たことのない光景なので美術館内は異様な雰囲気に包まれた。美術館のロビーから展覧会場には沢山(たくさん)の医療器具が配置され、病院さながらの様相を呈し、美術館がそのまま病院にハイジャックされた形になった。
この時点ではマスクを装着した人々が街に溢(あふ)れ、都市空間がアート化されるなんて誰が予想したであろうか。アートはしばしばその発想源が無意識に未来を現在化させる予知的なエネルギーをその内に秘めていることがある。従ってアートを予言(者)、幻視(者)と評される所以(ゆえん)でもある。とはいうものの、今ではマスクはただの日常風景。
現在は病院展は休館中だが、絵の制作は自粛するわけにはいかないので、終日アトリエに籠(こも)ったままだ。
作品は環境の変化に敏感に反…