コロナ禍に大災害が襲ったら 避難所は、ボランティアは
新型コロナウイルスが猛威をふるう中、自治体は、いつ起きるかわからない自然災害への備えも迫られている。多くの住民が押し寄せる避難所で「3密」をどのように回避するか。さらには復興を支えるボランティア活動や、災害医療態勢への懸念も残されている。
今年3月11日未明、北海道東部の標茶(しべちゃ)町を大雨が襲った。町は早朝、1192世帯に出した避難勧告をすぐに避難指示(緊急)に切り替えた。当時は道独自の緊急事態宣言下。密集を避けるため、町の体育館の避難所の床にテープを貼り、1人あたりのスペースを2メートル四方に区切った。
体育館の床面積は約1千平方メートルで、地域防災計画では500人収容とされていたが、避難者が200人を超えると満杯に。町は計3カ所に避難所を開設して対応したが、担当者は「町の広範囲が被災し、避難所の開設が長期間になると対応は難しくなる」と話す。
国は4月、新型コロナ禍で災害が起きた場合、通常より多くの避難所を開くよう都道府県などに通知。感染者は「一般の避難所に滞在することは適当ではない」とした。宿泊施設の業界団体には、避難者を受け入れられるホテルや旅館のリスト作りも頼んだ。
5月に入り、千葉県や茨城県で最大震度4の地震が相次ぐ。さらに奄美や沖縄が梅雨入りする中、自治体側も備えを進めている。2017年の九州北部豪雨で被災した福岡県朝倉市は4月、避難所の1人あたりのスペースを従来の4・7倍に広げることにした。これで半径1・5メートル以内に他の避難者がいなくなるという。
南海トラフ地震で大きな被害が想定される徳島県は4月21日、「サブ避難所」として、消防団の詰め所や民間の事業所を活用する方針をまとめた。政府の指針に合わせた形で、支援物資の分配や情報伝達の方法も市町村に検討を求めている。担当者は「防ぎ得た死をなくすため、できることから対策を進めたい」と話す。
宮城県気仙沼市は台風接近時などに事前に開く指定避難所を、12施設から25施設に増やす。神奈川県は避難所の間仕切りを導入。市町村に貸し出せる態勢を整えた。
大河川が南北を貫く東京都江戸川区は、災害時は区外に避難する広域避難計画を周辺4区と策定している。担当者は「計画では、知人宅や宿泊施設などの避難先を自分で確保するよう求めている。密集を避けられるため、新型コロナの感染拡大の中でも同じ」と話す。災害の規模にもよるが、自宅の上層階で過ごしてもらうなど「在宅」避難も促していく方針だ。
ボランティア自粛も
新型コロナ禍での災害を危惧するのは自治体だけではない。昨年10月の台風19号で、千曲川が氾濫(はんらん)して浸水した長野市長沼地区。4月初めまでボランティアたちが土砂の撤去や配食支援などにあたっていたが、一部の住民から感染拡大を懸念する声が寄せられた。長野県災害時支援ネットワークは、ボランティア活動の「自粛」を要請した。担当者は「申し訳ない気持ちでいっぱい」と話す。
同様に被災した宮城県丸森町も中心部などに土砂が残るが、町は2月末から町外からのボランティアの受け入れをやめた。今後は町民有志などが頼りだという。
NPO法人「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」や全国社会福祉協議会(全社協)などの担当者は、今後の対応をオンライン上で協議。5月中に、新型コロナ禍での災害ボランティアの指針をまとめる予定だ。全社協の高橋良太全国ボランティア・市民活動振興センター長は「ボランティアをしたい人と被災地の住民の意思を、はかりにかけないといけない」と悩む。
被災地に医療支援に入る災害派遣医療チーム(DMAT)の活動も見通せない。医師や看護師ら4人1組で1チームを組むのが基本だが、厚生労働省の事務局担当者は「医療従事者は新型コロナの対応にあたっている。災害時、どれだけDMATを出せるかはわからない」と話す。
「できる対策は同じ」
「できる対策は同じ。密集を避け、マスク着用や手洗いを徹底することが基本」。2011年の東日本大震災と16年の熊本地震の避難所を回った東北大学病院の徳田浩一・感染管理室長は、新型コロナ禍で災害が起きた場合の対応をそう話す。
「避難所では健康管理が重要。体調不良を訴えることに後ろめたさを感じさせない雰囲気作りが、感染症の拡大防止や健康維持につながる」とも指摘する。
東日本大震災では福島県内の一部の避難所でノロウイルスの集団発生が確認された。「初期は多くの人が同じトイレを使うのに清掃できないなど、衛生管理が行き届かない」と徳田室長。避難者で協力して清掃などにあたることが求められるという。
ボランティア活動でも、人の移動を抑制することが大切になる。「都道府県や市町村など一定の地域内に限って募ることも考えないといけない」と話している。
「避難所崩壊」 の懸念も
避難所での感染拡大を防ぐため、事前に準備しておくことは何なのか。「人と防災未来センター」(神戸市)の高岡誠子研究員が、避難所運営に当たる自治体向けのチェックリストをまとめ、公表した。
リストは、衛生用品の調達から避難所閉鎖時の対応まで8項目で構成。その中の確認事項を一つずつ満たすことで、クラスター(感染者集団)の発生を防ぐ避難所運営体制を作れるようにしている。
具体的には、用意する衛生用品の種類をはじめ、密閉・密集・密接の「3密」や感染者との接触を防ぐ避難所の区域分けの仕方、症状のある避難者との接し方、業務に当たった職員の相談体制の構築を確認事項として列挙している。
さらに、住民に対し感染を恐れて避難をためらわないよう「避難最優先」を呼びかけることや、濃厚接触者を追跡可能にするため避難者名簿に避難者の連絡先を記録すること、感染が確認されて自宅で療養中の住民の避難先として、ホテルや旅館などを確保しておくことも挙げている。
高岡さんは「避難所でクラスターが発生すれば『避難所崩壊』が起き、地域の『医療崩壊』につながる。それを防ぐため、今から全庁体制で事前準備を始めることが必要だ」と話す。
チェックリストは同センターのホームページ(http://www.dri.ne.jp/exreportvolr0201)で確認できる。(千種辰弥)
感染症予防のために準備しておく備品
・マスク、消毒液、体温計
・使い捨てビニール手袋や簡易トイレ(多くの人が触る部分に直接触れないため)
・使い捨てビニールエプロンやゴミ袋(避難所運営に携わる際に必要)
(松尾一郎・東京大客員教授らによる)
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