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 新型コロナウイルスで肺炎になった重症患者を治療するうえで最後のとりでになるのが、体外式膜型人工肺(ECMO(エクモ))だ。日本には約1400台あり、世界的にも断トツに多い。ただし、扱える医師が少なく重症患者がさらに増えた場合には十分に活用できないおそれがある。関連学会などは緊急の講習会を開くなどして対応を進めている。

 新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスはのどの奥で増え、せきや発熱といった症状が出る。さらに症状が進むと、ウイルスは肺の中で増えて肺炎を起こすことがある。ウイルスの増殖に伴って肺胞の機能が落ち、血液に酸素を取り込み二酸化炭素を排出する機能が落ちる。

 その場合、患者の免疫がウイルスに勝てるよう容体を安定させながら回復を待つ。肺の機能が低下して血液中の酸素濃度が下がると生命を維持が難しくなる。このため人工呼吸器を使って、高濃度の酸素を送る。ただ、活性酸素が多く発生するため肺に障害が起きるおそれがあり、そうなると、いくら酸素を送っても生命を維持できなくなる。

 ECMOを使うと、肺を休ませながら血液中に酸素を送ることができる。体から取り出した血液から二酸化炭素を除去、酸素を加えて体内に戻し、肺の機能を代替する。1970年代に開発され、機器や使用法の研究が進んだ。

ECMOのリスクとは…

 ECMOは手術中の心肺機能の代替や心肺停止した人の蘇生を目的に使われることが多い。その場合の使用期間は最大2、3日程度だ。一方、肺炎の治療では装着期間が1、2週間から1カ月程度と長くなる。ECMOを使うと血栓ができやすくなるため、血液が凝固するのを防ぐ薬を使う。長期間使うことにより、脳出血や消化管出血を起こすリスクが高まる。

 かわぐち心臓呼吸器病院(埼玉県川口市)の竹田晋浩(しんひろ)院長は「出血は命に直結する。上手な管理が必要だ」と話す。2009年に新型インフルエンザが流行した時も重い肺炎患者にECMOが使われた。だが、欧米に比べて日本の救命率が低かった。欧米ではECMOを使用する病院を決めて機材や患者を集中させており、医師の熟練度が高かったからだという。

 日本にあるECMO約1400台は先進国でも「断然多い数」(竹田さん)だが、数台ずつ各病院に分散しているため使う機会が少なく管理の熟練度が上がりにくいという。

 竹田さんらはECMOの管理技術向上のためのチームを作り、09年以降全国で講習会を開くなど技術を広めてきた。16年に季節性インフルエンザが世界的に大流行した際は09年より高い救命率を達成できたという。

 チームは新型コロナウイルスの感染拡大をにらみ、2月に医療機関向けの24時間相談窓口を設置。さらに関西、東北、北陸など地域ごとの拠点病院で医師らを対象にした緊急の講習会を開いている。ECMOを使った経験のある医師が対象で、患者に使う際はテレビ会議などで助言する。また、ビデオをつくって医療機関に配布することも考えているという。

 新型コロナウイルスへの感染を防ぎながらECMOを使うには陰圧の集中治療室を使い防護服を着るなど、医療者の負担が大きい。実際にECMOを使って治療にあたった、杏林大の皿谷健准教授は「他の治療を含めて1人の患者に約30人のスタッフを集めた。負担は大きかった」という。竹田さんも「技術に優れてECMOを5台備えた病院でも同時に対応できる患者さんは2、3人が限界ではないか」と話す。

 ECMOはあくまで患者の回復を待つ時間を作る手段だ。日本集中治療医学会などの調査では、5月10日までに新型コロナウイルスの患者155人にECMOが使われた。87人が装置を外せるまで回復、40人は現在も装着中だ。一方、装着したものの亡くなった人が28人いたという。

 全ての重症化した新型コロナウイルス感染患者にECMOを使えるわけではない。普通の肺炎でも高齢だったり重い持病があったりするとECMOをつけても回復が難しい場合がある。このため、装着しない判断もありうるという。

 竹田さんは「新型コロナウイルスの肺炎に対してどこまで有効か正直わからない部分もある。ただ救命率を上げるにはECMOを含めた患者の集中管理をいかに上手にできるかが重要だ」と話す。(三上元)