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 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、福島県内の高校生が先月、休校を求めて行った電子署名には約2週間で3千人近くの賛同者が集まった。若者を突き動かしたのは、9年前の原発事故の時の経験だった。

見えない恐怖、再び

 署名を集めたのは、高校2年の男子生徒(16)。政府の要請を受け、県内の公立高校は3月上旬から一斉休校したが、新学期から再開した。一方で休校決定時にゼロだった県内の感染者は増え始め、「登下校のバスや電車が怖い。学校に行くのは不安」と感じ、4月5日からネットでの署名を始めた。

 思い出したのは、9年前の東京電力福島第一原発事故での経験だった。当時、小学1年生。自宅は原発から数十キロにあり、自宅の中で過ごす日々が1カ月続いた後、県外の親戚宅へ家族で避難した。

 目に見えない放射能被害に偏見や風評被害が生まれた。「避難先で一番印象に残っているのは周りからの目。良い目で見られていなかった」。小学校低学年ながら、今も深く脳裏に刻まれる。

 夏に避難先から戻ってからは、マスクを着けての登下校。プールなど屋外での授業はなくなり、うだるような暑さの中、体育の授業は体育館で受けた。報道を通じ、古里を追われ、避難生活を続ける人たちの姿もまぶたに焼き付いた。安全神話に浸(つ)かり続けたことが事故の遠因とも学んだ。

 あの時に得た教訓は「行動しなければ大切な人や物を失う」こと。9年の時を経て再び「見えない恐怖」と向かい、「今が自ら行動する時だ」と思い立った。

「政府、うのみにできない」

 共感の輪は同世代に広がる。福島県郡山市の安積高校3年、渡部めぐさん(18)もその一人。原発事故の後、「ただちに健康に影響はない」という政府見解が被災地で不信感を招いた。渡部さんは親の仕事の都合で避難できなかったが、長期休みごとに放射線量の低い県外に滞在する「保養」へ出掛け、遠隔地の食材を使った弁当を持参し続けた。「政府の言うことはうのみにできない。自分の身は自分で守る」と思い起こし、署名に賛同した。

 署名サイトには「消毒がない状況で始業式が行われた」「電車やバスで通学する生徒もいる」といった高校生らの書き込みが相次いだ。署名は2882人分集まり、メールで県教育委員会に提出。表だって反応はなかったが、政府の緊急事態宣言が全国に拡大し、4月21日から公立高校の一斉休校が再び始まった。

 一方、署名を始めた男子高校生にはツイッターのダイレクトメッセージで「何も知らない餓鬼がいきがってるなよ」などの批判も数十件届いた。それでも高校生は「自ら考えて行動するのは大切だと思った。この行動をして後悔していない」と振り返る。(力丸祥子、関根慎一)