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 衆院憲法審査会による昨秋の欧州視察報告書がまとまった。緊急事態での議員任期延長や国民投票の際の広告規制など、日本の国会でも焦点となっている事例が盛り込まれ、今後の憲法論議の参考とする考えだ。

 視察は昨年9月に実施され、審査会長と与野党幹事の6人が、ドイツ、ウクライナ、リトアニア、エストニアを訪問した。各国の憲法改正をめぐる諸課題や視察でのやりとりが400ページ超で記録されている。

緊急事態での国会のあり方、各国でも議論

 新型コロナウイルスの感染拡大で、国会でも論点となっている「緊急事態での国会のあり方」について、訪問国でも議論になった。

 報告書では、2014年に政府軍と親ロシア派の武力衝突が始まったウクライナの憲法裁判所裁判官が「議員の任期延長は当たり前だ。危機的な状況が発生した時に唯一の権力機関がなくなるのは非常に危険」と指摘した。同国の憲法では、有事などの緊急事態に大統領が非常事態を布告すると、国会にあたる「最高会議」の議員任期が延長される規定がある。

 ただ、別の裁判官は武力衝突の際に本末転倒の事態が起きたとも説明。「緊急事態の間は(憲法によって)選挙ができない。そこで、選挙を実施できるようにするため布告されなかった」とした。実際、非常事態が布告されたのは翌15年になってからだった。

 日本では、自民党などで緊急時に衆院議員の任期を延長する改憲論が浮上する。視察に参加した議員の一人は「選挙をにらんだ党利党略で緊急事態時の判断が左右される危うさがある」と述べ、十分な議論が必要だとの認識を示した。

拡大する写真・図版ウクライナの憲法裁判所幹部と意見交換をする衆院憲法審査会の与野党議員=2019年9月24日、ウクライナ・キエフ、大久保貴裕撮影

ネットなどの広告めぐり、ドイツなど対応苦慮

 憲法改正を問う国民投票では、立憲民主党など野党がテレビなどの広告規制を求めているが、訪問国でも課題が浮上している。

 エストニアでは、03年のEU加盟をめぐる国民投票で、豊富な資金力を持つ勢力による広告が問題になった。民間財団が賛成派の団体に多額の寄付をし、保守系議員は賛成側が反対側より20~30倍の寄付を得たと主張し、「不公正で奇妙な国民投票運動」と総括した。左派系議員は「もし資金があれば、反対の結果になったかもしれない。キャンペーン資金の透明性をどう担保するかが非常に重要だ」と警鐘を鳴らす。

 急速に影響力が強まるネット広告への対応も課題とされた。

 報告書は、欧州連合(EU)全体の状況について「直接フェイクニュースの発信や流布を法的に規制するのではなく、事業者が自主的対策を講じるように要請することとしている」とする。ただ、ドイツ政府のメディア法担当者は「自主的にやってもらい、効果がないと分かったら法的規制に入る」と説明。自主規制では実効性に限界があるとも認め、「立法化に向かう決定が出てくるだろう」との見通しを示した。

拡大する写真・図版ドイツの公法学者らと意見交換する衆院憲法審査会の与野党議員=2019年9月20日、ドイツ・ベルリン、大久保貴裕撮影

 報告書を踏まえ、与党側は「緊急事態やネット広告規制について日本でも議論を深めるべきだ」(視察参加議員)と呼びかける。だが、野党は「いまはコロナ対策を優先すべきだ」と慎重で、議論が進む見通しは立っていない。報告書は衆院憲法審査会のホームページ(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/index.htm別ウインドウで開きます)で見られる。(大久保貴裕)