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 いきなりですがクイズです。

 「鉄1kg」と「綿1kg」どちらが重いでしょうか?

 冷静に考えれば、どちらも1kgですから重さは同じです。ですが、一般的に「鉄は重い」「綿は軽い」と認識している人が多いのではないでしょうか。

 そうすると、冒頭のクイズに、思わず「鉄1kgの方が重い」と回答してしまった人がいるかもしれません。

 このように、人間の思い込みや先入観(専門用語で「バイアス」といいます)で情報を正確に認知できなくなることがあります。世の中を見渡すと、心理効果や数字のトリックなどを駆使した情報で消費者をだまそうとしている、ちょっと悪質なケースも散見されます。今回は、健康食品など補完代替療法(民間療法)の広告・宣伝でよく使われているフレーズに隠された秘密について考えてみます。

 さっそく、よくみる事例から紹介していきます。

第三者による経験談の魔力

 サプリメントを販売している営業マンの「弊社の商品は最高です!」という宣伝文句、消費者の立場からすると「ちょっと大げさに言っているのでは?」を疑いの目を向けたりすることはないでしょうか。ですが、その商品を使ったことがある利害関係のない第三者が、「この商品は良かったよ」と言っていたらどうでしょう?ちょっと信憑(しんぴょう)性が増してくるかもしれません。

 このような現象を心理学用語で「ウィンザー効果」といいます。ネットショップの「お客様の声」、グルメサイトの「口コミ評価」なども同様の効果をねらったものです。身に覚えのある人も多いのではないでしょうか。

 また、同じような悩みを抱えている人の声は身近に感じませんか?経験談には、消費者を「私と同じだ!」と思わせ、連帯感を抱かせることで購買意欲を後押しする意図もあります(つり橋効果)。

 しかし、この経験談の効果を悪用するケースが最近問題視されてきています。例えば、第三者による経験談だと消費者に思わせておきながら、実は企業に都合の良いことばかりを恣意(しい)的に掲載していたなど、公正中立とはいえないような事例が後を絶ちません。

 経験談そのものを否定するわけではありませんが、冷静に向き合っていく必要がありそうです。

権威者の言うことは真実か?

 「天然物を30年間研究し続けてきた大学教授が発見した新規成分によるサプリメント」

 「アメリカの名門ハーバード大学医学部と共同開発した画期的な化粧品」

 このように権威と称される肩書や所属をアピールすることで、その商品の信頼性を高めようとする手法は、人間が持つ「権威への服従心理」を応用したものになります。似たようなパターンとして、俳優やスポーツ選手といった有名人が愛用しているといったアピールも、商品の魅力向上に一役買っています(ハロー効果)。

 ただ、健康や医療の分野においては、その分野に詳しい本当の専門家か、切れ味鋭いコメントができる肩書だけ同じの専門家か、見分けることが難しい現実があります。

 消費者の立場としては、「権威者の言うことをうのみにするのは控える」といった慎重な態度が求められてくるかもしれません。(※補足:「有名人と同じものを使いたい」というファン心理を否定するものではありません)

みんなが使っているから良い商品?

 「肌の調子が気になる女性に絶大な支持をうけ、今●分に1本売れている化粧水」

 「創業からひざの関節の悩みに向き合って●●年、これまでに500万人の愛用者」

 行列のできるラーメン屋と閑古鳥が鳴いているラーメン屋、どちらがおいしいだろうかと質問されれば、恐らく「行列のできるラーメン屋」と回答するのではないでしょうか。

「多くの人が使っている」という現象をアピールすることで、ますます同じ選択をする人が増えることを「バンドワゴン効果」といいます。「バンドワゴン」とは行列先頭に居る楽隊車のことで、「バンドワゴンに乗る」とは時流に乗る・大勢にくみする・勝ち馬に乗るということを意味します。

 消費者としては、バンドワゴン効果に踊らされた結果、なんとなく安心感や満足感が得られるということもあるかもしれません(同調現象)。

 その逆に、商品の希少性をアピールすることで、高価な商品を売りつけてくるパターンもあります。

 「アマゾンの奥地でしか入手できない希少素材による健康食品を独占販売」

 「アメリカで大流行し入手困難となった化粧品を日本で唯一先行販売」

 健康食品などの補完代替療法において、「希少商品である」ということは効果が高いということを意味しているわけではありません。また、「たくさん売れている」ということが安全を意味しているわけでもありません。是非、そのことは胸にとどめておいてください。

数字にはトリックが

 「しじみ500個分のオルニチンが1粒に凝縮」

 「これ1本で食物繊維がレタス2個分」

 冒頭のクイズではありませんが、比較対象となるものを置き換えることで、その商品の効果についてイメージアップを図る手法を「シャルパンティエ効果」といいます。

 そのほかにも、数字の見せ方を変えることで、より多くの成分が入っているように消費者に思わせるような手法もあります。例えば、「タウリン1g」よりも「タウリン1000mg」、「ビタミンC1g」よりも「ビタミンC1000mg」と表示されている方が、たくさん入っているように錯覚してしまうことはないでしょうか。このように同じことを表すのに、表現方法が違うだけで受け取り側の印象が変わる現象を「フレーミング効果」といいます。

 ここで、数字のトリックの落とし穴についても補足します。

 例えば、「しじみ500個」を普通に食べることはできるでしょうか?もしかすると、おなかをこわしてしまうかもしれません。商品のお得感だけに惑わされずに、「安全性は大丈夫か?」にも目を配ってもらえたらと思います。

 蛇足かもしれませんが、レタスはもともと食物繊維が多い食品ではありません。日本人の食品摂取基準を参考にすると、成人男性の場合、レタス(1玉500g)を5玉を食べないと食物繊維の摂取目標量(20g以上)に到達しません。効果の水増しにも気をつけたいところです。

 なお、今回紹介したもの以外にも情報を歪(ゆが)んで認知してしまうような心理効果は数多くあります。一方で、このような心理効果を応用した経済活動が、マーケティングの名の下、積極的に展開されている現状があります。

 消費者の立場としては、何に気をつければよいのでしょうか?

 これら心理効果をひとつひとつ確認していくことも、一つの手段かもしれません。しかし、心理効果によるマーケティングは、人の脳がもともと備えている仕組みを応用したものになります。なかなか、本能的な脳の仕組みにあらがうことは難しいという一面も否定できません。

拡大する写真・図版情報の認知を歪める心理効果

 ですので、筆者からのメッセージとしては、「人の脳はもともとだまされやすい」という事実を常に頭の片隅においておき、情報を入手するときに立ち止まる勇気を持つことになるのではないかと考えます。

大野智

大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、日本緩和医療学会ガイドライン統括委員(補完代替療法分野担当)も務める。