コロナ抗体検査、どう活用? 高精度でも偽陽性のリスク
新型コロナウイルスへの感染の有無がわかる「抗体検査」が注目されている。どこまで流行が広がっているのかを把握できるうえ、抗体があれば、新型コロナに再び感染しないと考えられるからだ。海外では抗体を持つ人に社会活動を認める「出口戦略」に使う動きもある。だが、抗体の仕組みにはわからないことも多く、検査の精度もまだ不十分など課題は多い。
新型コロナウイルスは鼻やのどなどの粘膜に感染して増える。ウイルスを排除しようと、免疫反応が起こる際に作られるたんぱく質が抗体だ。感染から2~3週間後に、ウイルスの表面にくっつきやすい形のものが大量につくられ、簡易キットを使えば採血から15分で結果が出る。一方、診断に用いられるPCR検査や抗原検査は、鼻の奥などをぬぐった液にウイルスがいるかを調べている。
日本はPCR検査を症状の重い人に優先して実施してきたため、検査を受けていない無症状や軽症の感染者が多いとみられる。そこで、抗体検査を広く実施し、実態をつかもうとする動きが始まった。
厚生労働省は15日、4月下旬に東京都内で採取した500人の献血を調べ、3人が陽性(0・6%)だったと発表した。ただ、新型コロナが発生していない昨年1~3月の献血からも陽性が出て、実際には感染していない「偽陽性」と判断された。さらに規模を広げて実態を把握するため、6月から1万人規模の検査を始める方針だ。
医療機関が独自に検査を行った例もある。神戸市立医療センター中央市民病院は5月2日、一般外来を受診した患者1千人を検査し、33人(3%)が陽性だったと発表した。
海外では、米ニューヨーク州は2日の発表で、約1万5千人を検査し、暫定値では12%が陽性だった。州の人口に単純にあてはめると、感染者は270万人に上り、確認されている感染者の7倍を超える。スペインでも国内6万人の検査結果が13日に公表され、5%が陽性だった。
しかし米食品医薬品局(FDA)が公表している抗体検査キットの性能評価によると、高い精度で判定する装置でも、偽陽性が0・2%出てしまうという。感染者数が少ない地域で大規模に抗体検査をすると、誤差の影響が大きく出てしまうという問題がある。
抗体検査を感染の広がりを把握するだけではなく、個人が免疫を持っている証明に使おうという動きもある。麻疹(はしか)は一度感染して発症すれば、生涯免疫が続く。新型コロナでも、一度感染すればしばらくは再感染しないという期待があり、英国では抗体のある人に証明書を出して、外出を認める「免疫パスポート」の構想もある。
だが今のところ、抗体があれば再感染しないという根拠はない。世界保健機関(WHO)は4月下旬、抗体を持つ人が再感染から守られているという証拠はまだないと警鐘を鳴らした。
たとえ抗体に再感染を防ぐ効果があっても、免疫が徐々に減り、なくなってしまう可能性もある。中国の研究グループの論文によると、コロナウイルスの仲間のSARS(重症急性呼吸器症候群)では、感染して3年目になると、体内の抗体が減っていた。新型コロナではどうかはわからず、今後の研究が必要だ。
一般的に、人口の60~70%が免疫を持てば「集団免疫」を獲得し、感染は収束に向かうとされる。陽性者の割合が5%程度では、行動の自粛緩和といった政策を変える根拠には使えない。山形大病院検査部の森兼啓太部長は「抗体検査が陽性の人の割合は、感染の広がりを知るための一つの目安にすぎない。無症状のまま回復した人でも抗体がみつかるのかなど、まだまだ新型コロナの抗体についてはわかっていない部分が多く、検査の結果の評価は難しい」と指摘する。(後藤一也)
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