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 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、食事のテイクアウト(持ち帰り)販売が一気に増えた。気温も湿度も上がるこの時期、売る方も買う方も注意したいのが衛生面だ。慣れない飲食店も参入する中、食中毒事故を防ごうと、業界内でも水際の努力が始まっている。

拡大する写真・図版STOP食中毒キャンペーンが作った注意喚起のチラシ

危なっかしいメニューが

 飲食店検索サイト「食べログ」の運営会社によると、店舗ページでテイクアウトの詳細情報を掲載していた店は、4月6日は約6300店だったのが、5月11日には約3万7千店と約6倍に。利用者側がテイクアウト可能な店を検索した数(スマートフォンのみ)も、1月27日~2月23日の28日間と、4月1日~28日の28日間を比較すると約8・6倍になっているという。

 だが、安全面の目配りは急増に追いついているのか。

 鮮度のいい刺し身に、炊きたてご飯の定食がお店の人気メニューだとしても、一緒に詰めてテイクアウトにするのはNG――。4月にできた「STOP食中毒キャンペーン」のウェブサイト(http://www.bento-takeout.jp/別ウインドウで開きます)には「冷たいものと温かいものを一緒に詰めない」「真空パックでカレーを売るときは」といったテイクアウト販売の注意点が詳しく解説されている。

 東京都内の食材販売会社がボランティアで事務局を作って運営する。「ネット上に、急にテイクアウトを始めた店の危なっかしいメニューが見受けられ、事故になる前に予防の情報が必要でした」。サイトを立ち上げた浅井裕子さんは背景をそう説明する。持ち帰りや宅配といった中食の専門誌の元編集長だ。

 持ち帰り総菜や仕出し業者が培ってきた食材の扱いや温度管理のノウハウを共有し、注意点をまとめた転用自由のチラシも。自治体や食品容器の販売店からも問い合わせが相次いでいるという。

 「店の存続を賭けた取り組みで事故が起きれば、その店は再起不能になってしまう。飲食店を監督する保健所も、食中毒患者を診察する医療機関も、新型コロナの感染対応の最前線で手いっぱい。何より外食を支援する気持ちで利用してくれる皆さんに迷惑はかけられません」

 5月上旬には各ジャンルの有名料理人10人が登場する動画も配信した。京都の料亭「菊乃井」主人の村田吉弘さんが「飲食店の皆様おつかれさまです」と呼びかけて始まり、リレーで「温かい料理は急速に冷やして」「直射日光の当たる場所に弁当を置くと傷みますよ」とアドバイスが続く。

拡大する写真・図版STOP食中毒キャンペーンの動画「料理界の名匠たちから飲食店の皆様へ応援メッセージ」=事務局提供

 浅井さんによると「お客さんには温かい料理を食べてもらいたい」と注意に耳を貸してくれない店もあるといい「説得するには同じ料理人の言葉が必要でした」。

 6月には改正食品衛生法が施行され、小規模な飲食店にも、衛生管理の国際基準であるHACCP(ハサップ)の考え方をとり入れた衛生管理計画をたて、調理手順を記録するなどの対応が求められるようになる。キャンペーンのサイトでは、店の「やることリスト」として、届け出などの注意も発信している。

リスクの高い食品やメニューは
殺菌消毒や加熱をしていない野菜 /皮ごとの生の果物/生卵、半熟卵 /レアな肉、刺し身、生の貝類 /温かいものと冷たいものを合わせた料理 /調味料の少ない料理 =浅井裕子さん、小暮実さん、消費者庁などへの取材から

先達からのアドバイス

 テイクアウトに慣れた店もアドバイスを発信している。

 京都市の国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」のオーナー中村朱美さんはテイクアウト歴7年半。培ったノウハウを「テイクアウト事業を始めた事業者の皆様へ」と題して、4月にSNSへ投稿した。

 例えばビニール手袋の着用。食中毒の一因となる黄色ブドウ球菌は手の切り傷やささくれに生息し、食品に付くと毒素を発生させる。こうした菌の付着をビニール手袋で防げる、と着用を促す。

 髪の毛が入るのを防ぐメッシュキャップの着用、画びょうやクリップが入らないよう店内の掲示物はテープ留めに変更、と異物混入対策も具体的だ。

 デリバリーをしている店舗では、メニューによっては消費期限やアレルギー物質、原材料などを書いたカードも用意。中村さんは「目の前でお客さまが召し上がらない分リスクも大きい。いつまでに食べきるかは示しておいた方が賢明」と呼びかける。

拡大する写真・図版#STOP食中毒キャンペーンで製作した、飲食店がテイクアウトを始める時の疑問をQ&Aでまとめたチラシ=事務局提供

客側のポイントは二つ

 利用する側が気をつけることは何か。不安なことは聞く、そしてすぐに食べる。この二つに尽きるようだ。

 食品表示法では、包装容器に入った加工食品には原材料や消費期限、食物アレルギーの特定原材料などの表示が義務づけられているが、飲食店のテイクアウト商品は「外食の一部」と整理され、表示が義務になっていない。必要とする情報は買う時に自分から聞く必要がある。

 厚生労働省によれば、食中毒を引き起こす細菌の多くは室温約20度で活発に増殖し始め、人間や動物の体温程度の温度で増殖のスピードが最も速くなる。細菌の多くは湿気を好むため、気温も高くなる梅雨時は食中毒の危険も高まる。

テイクアウト、食べる側の注意と工夫
消費期限やアレルギー情報など必要な情報は、購入時に店に聞く /持ち帰ったら早めに食べる /長時間の持ち歩き、室内放置はしない /保冷剤や凍らせたペットボトルなど、冷やせるものを持って買いに行く /留守番する子どもだけで食べるのは避ける(食品の傷みや食物アレルギーが判断できない)=浅井裕子さん、小暮実さん、消費者庁などへの取材から

 東京都中央区保健所で長く食品衛生監視員を務めた食品衛生アドバイザーの小暮実さんは「味やにおいが悪くなる前から菌の繁殖は進む。食べきれる量だけを買い、調理から2時間以内を目安に食べきってほしい。保冷剤を持って買いに行くのも一案です」と話す。

 全ての食材に火が通してある弁当でも、盛り付け時に菌が付着することはある。過去にはピラフやステーキの弁当で食中毒が発生したこともある。「店の厨房(ちゅうぼう)と、コンビニなど長時間流通させることに対応する弁当工場では、製造や管理の状況が異なります。同じ料理だとしても、同じに考えないでください」(編集委員・長沢美津子、小林未来)