血液をきれいにする腎臓の働きが落ち、人工透析を受けている人たちが、新型コロナウイルスへの不安を募らせている。感染したときに重症になるリスクが高いだけでなく、ほとんどの患者は透析のために外出せざるをえないからだ。検査の遅れで透析を受けられず、体調を崩す人も。透析施設では感染を防ぐ装備が不足がちで、院内感染を警戒する医療スタッフが緊張を強いられている。
「熱があります」。大阪市内の40代の男性は4月6日、週に3回通うクリニックで透析を受ける前に、医師に告げた。X線撮影をすると肺炎を疑わせる影が映り、急に医師があわて出した。「別室で待っていてください」「いや、やっぱり自宅で保健所から電話が来るのを待って」
電話がきたのは翌日の夕方。検査を受けに来るよう言われたが、透析していないので体がぐったりして、起き上がれなかった。知人が車を出してくれ、検査で新型コロナ陽性とわかったのは8日の夕方。夜になって、府内の感染症指定医療機関に受け入れが決まり、救急車で運ばれた。
結局、予定した透析が2回分受けられず、一時は口もきけなかった。入院して連日の透析を受け、徐々に回復した。「自分は若く体力もあった。もし高齢者だったら持ちこたえられなかったかもしれない」
重なる重症化の要因
透析に携わる開業医らでつくる日本透析医会のまとめによると、国内では5月15日現在95人の透析患者が新型コロナに感染し、12人が亡くなっている。
まだまとまった大規模なデータはないが、透析患者が新型コロナに感染すると重症になりやすいのは、ほぼ確実とみられている。透析が必要な人は、すでに指摘されている「高齢」「糖尿病」といった重症化の要因を重ねて抱えていることが多いためだ。
2月に公表された中国疾病対策センターの報告によると、感染した人が亡くなる割合を示す致死率は全体で2・3%だったのに対し、70代の人は8%、80歳以上で14・8%だった。一方、国内の2018年の調査で透析を受けている約34万人のうち、ほぼ半数にあたる約17万人が70歳以上。80歳以上に限っても約6万7千人いる。
中国の報告では、糖尿病を抱えていた感染者の致死率は7・3%だった。日本で透析を必要とするようになった原因としての病気で最も多いのは糖尿病で、全体の約4割を占める。
透析患者が亡くなる原因として2番目に多く、21%を占めるのは一般的な肺炎を含む感染症だ。理由の一つとして、透析患者は免疫の働きが低下しがちなことが推定されている。腎不全のせいで体に毒素が残りやすく、食事制限が必要なために十分な栄養が得にくいことなどが影響している。
全国腎臓病協議会(全腎協)の金子智(さとる)事務局長は「透析患者は二重、三重の重症化リスクを抱えている。発熱してもすぐにPCR検査を受けられないという訴えも少なくない。感染して発症したらどうなるのか、透析は続けられるのか。会員はみんなとても心配している」と話す。
透析施設の対応は
感染を防ぐために自宅にとどまることも、透析患者には難しい。週に3度ほど、1回に数時間の透析を受けなければ生命を保てない。自宅で受ける「腹膜透析」といった手段もあるが、ほとんどはクリニックや病院に通っている。
透析施設では同室にたくさんの患者が集まる。感染者が出れば患者や医療スタッフを通して一気に広がりかねない。すでに、透析をする施設のスタッフや患者の間で院内感染が起きたとされるケースもある。
約260人が透析を受ける地域医療機能推進機構(JCHO)千葉病院(千葉市)では4月30日、コロナ患者専用の病室を稼働させた。4人部屋を1人で使うようにするなどして8床。専属の看護師6人も指名した。いずれ他施設の透析患者を受け入れることも想定している。
発熱している人は施設への入り口を平熱の人と分けて医師が診察、感染が疑われた場合はPCR検査につなげる。
室谷典義院長は「感染が疑われる人と、そうでない人が接触しないよう注意している。患者さんにも『症状がなくても、感染しているかもしれないと思って注意してください』と呼びかけています」という。
現在の悩みはマスクや滅菌ガウンといった防護具の不足だ。コロナ陽性の患者が相次げば3週間ほどで底をつく可能性が高く、手術室に滅菌ガウンを着て入室するスタッフの人数を絞るようにしている。
透析医会は4月、施設での感染予防などについての指針の最新版を作成。すべての患者が感染している可能性があることを考慮して、院内感染の防止などに取り組むよう求めている。
透析の間隔、長くなる可能性
透析を受けている患者は、どんなことに気をつけたらいいのか。
まずはふだんにも増して、せっけんを使った丁寧な手洗いを心がけ、人混みを避けるなど感染予防を徹底する。37・5度以上の熱がある場合は、そのまま透析施設には行かず、まず施設に電話で相談する。「帰国者・接触者相談センター」などに連絡して検査を受けに行くこともある。周囲に感染を広げないため、透析施設ではマスクをして、至近距離で接するスタッフに大きな声で話しかけないといった配慮が大切になる。
全腎協は透析患者がすみやかに検査を受けられるよう、厚生労働省に要望している。
日本透析医会の菊地勘新型コロナウイルス感染対策ワーキンググループ委員長は「いまは『災害時』だと考えてほしい」と話す。東日本大震災の際も、透析施設が被災してしばらく透析が受けられなくなるケースがあった。「多くの場合、透析を受けてから次に受けるまでの間隔は2日間だが、これが3日間になる可能性をあらかじめ見込んでほしい」
JCHO千葉病院の室谷さんは、透析をしないと体にたまりやすく、有毒となるカリウムを含む食品を少なめにとるなどの注意が、ふだん以上に必要だと話す。カリウムはバナナなどの果物やイモ類などに多く含まれる。自分が感染したら同じ施設で透析を受けられるのか、薬を多めに処方してもらわなくてもいいか、といった点について、あらかじめ医師に相談しておくことをすすめる。
透析施設では患者はマスクをつけるが、足りなくなっている。全腎協の金子さんは「院内感染を広げないためにも、透析施設で患者やスタッフが使うマスクは十分に確保できるようにしてほしい」と訴える。(田村建二、瀬川茂子)
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