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 福岡県が人権啓発のために九州朝日放送(KBC)に委託しているラジオ番組の内容をめぐり、県が聴取者からクレームがあったことを理由にアーカイブ化する際に一部削除するよう出演者に要請していたことが明らかになった。出演者は要請を拒否し、内容は変更されなかったという。

 番組は「中西和久ひと日記」。県がKBCに制作を委託し、1997年に始まった。福岡県出身で俳優の中西和久氏が、人権や差別問題などに取り組む人へのインタビュー内容にコメントをつける形で構成。毎年3月ごろに県やKBC、中西氏がテーマや人選などの打ち合わせをしているが、契約書には県が番組内容の編集に関与できる規定はないという。

 番組は毎年6~8月の平日に5分間放送。放送後アーカイブ化され、県外郭団体・県人権啓発情報センターのホームページで聴くことができる。

 中西氏は昨年8月19~23日、第2次世界大戦中にインドネシアで日本軍の捕虜になり福岡県水巻町の炭鉱で働かされたオランダ人の元捕虜と町民の交流を取り上げ、住民団体代表のインタビューが放送された。コメント部分で、記録作家林えいだい氏の著書「インドネシアの記憶―オランダ人強制収容所―」の一部を引用し、「産炭地筑豊には朝鮮人、中国人、戦争捕虜など強制連行された人々が送り込まれ、大炭鉱で働かされた」「日本人坑夫がまず安全な場所を選び、強制労働の彼らには過酷な現場が待っていた」と読み上げた。

 県人権・同和対策局調整課によると、放送翌日に「徴用工問題が政治問題化している中で県の税金で政府の見解に反するような放送を行うのはどうか」と指摘する手紙1通が届いた。番組では徴用工問題は触れていなかったが、県は戦時中の炭鉱での強制労働という政治的に敏感な話題を扱ったことが批判を招いたと問題視。このままアーカイブ化されたら同様の批判が寄せられかねないとみて今年1月、中西氏に引用部分の削除や編集を要請した。

 だが、中西氏は要請を拒否。KBCも「アーカイブ化は放送内容のまま登録するのが原則」として修正できないと回答した。

 中西氏は「多様な意見があっていい」としつつ、「1通の批判で表現の修正を求める感覚がわからない。表現の自由は人権問題の核心」と話す。県は取材に対し「番組は県の広報的なものであり、中西氏の意見表明の場ではないと考える。ただKBCの指摘もあり、そのまま登録することにした」と説明した。(宮田富士男)

 専修大学・山田健太教授(言論法)の話 県の対応はスポンサーという立場を利用し、番組内容の変更を求めるものであって、大きな問題をはらむ。見解が分かれるような話題には触れるなといった要求は、多様な放送を求めている放送法や、表現の自由を保障する憲法の観点からも、重大な問題がある。昨今の「異論を認めない」という風潮が県庁内にも浸透しているのかと疑念を持たざるを得ない。