新型コロナ、パナ中国の経験 「感染者出れば、封鎖」
「新型コロナウイルスはヒトからヒトに感染する」。1月20日、中国政府の対策組織を率いる鍾南山医師が国営テレビで語った。
中国で家電や住宅設備などを手がけ、工場や事業所85社を展開するパナソニック。中国・北東アジア地域の本間哲朗総代表(58)は、感染拡大で「大事になるかもしれない」と感じた。
予感は当たる。感染者が大量に出た湖北省武漢市が1月23日に封鎖され、各地で移動制限が始まった。24~30日の春節休暇は2月2日まで延長。同社は武漢に工場はないが、約600キロ東の浙江省杭州市など約50の工場の操業再開は不透明になった。
1月26日に米国出張から日本に戻った本間氏は、工場の再開と、休暇で日本に帰った邦人駐在員を戻すかどうかの決断を迫られた。脳裏に「中国じゅうが武漢のようになるかもしれない」と不安がよぎった。
頼りは先行して現地に入った150人の駐在員や中国人社員から上がる情報だった。「2月10日くらいにほとんどの地方政府は操業再開を認めそうだ」「工場の感染防止措置は、間に合いそうだ」。こうした情報をもとに本間氏は2月8日、駐在員を現地に戻し、工場を再開すると決めた。本社の津賀一宏社長に方針を伝え、翌9日に自らも北京に入った。時期を同じくして戻った430人の従業員が手にしたのは大量のマスクだった。
2月10日以降、順次再開させた各地の工場は出入り口を1カ所に絞った。防護服を着た社員を配置し、出勤者の体温を計測。構内でも仕事場への入室時や昼休みにも測った。「17年前、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した時に実践した予防処置を全中国の事業場に導入した」と、同社の高巨・リスク管理高級副総監は振り返る。
「1カ月分必要」と厳命されたマスクや消毒液は自社で用立てた。世界の拠点からかき集めたマスクは230万枚。それでも総勢8万人に上る社員ひと月分しかなかった。「感染者を出したら、最低1週間封鎖だ」。当局の厳しい指示に現場の空気は張り詰めた。
難題はつきなかった。経済へ…