全国に先駆けて新型コロナウイルスの感染が広がった北海道。2月末に道が独自の緊急事態宣言を出し、いったんは収束の兆しが見えたものの、宣言解除後の4月に「第2波」に見舞われた。政府の緊急事態宣言は東京などとともに5月末まで延長され、外出自粛が全国でもっとも長期化している。「営業するだけ赤字がふくらむ」「従業員の雇用を守りたい」。異例の経済危機に直面する経営者の胸の内を聞いた。
森の中の温泉が無期限休業を決断
札幌市の隣の北海道当別(とうべつ)町。自然豊かな庭園を望む源泉掛け流しの露天風呂で多くのファンに愛された日帰り温泉「開拓ふくろふ乃湯」が5月4日、SNSで無期限休業を発表した。
政府の緊急事態宣言を31日まで延長すると、安倍晋三首相が記者会見で発表した日。経営者の高野紀康さん(45)は「営業してもお客さんは見込めず、赤字が続いて資金が1カ月持たない」と苦渋の決断を明かす。
桜やモミジなど季節の草木が自慢の庭園にはエゾリスが顔を見せ、エゾアカガエルが大合唱する人工池には、アオサギなどの渡り鳥が飛来する。男湯・女湯にそれぞれ10人ほどしか入れない小さな温泉だが、琥珀(こはく)色の優しい肌触りの泉質が人気で、雪の影響がなくなる4月下旬から11月末までの営業期間中に、毎年1万人が訪れていた。週末は入場待ちの車で駐車場があふれ、地元テレビ局の「札幌近郊のおすすめ日帰り温泉ランキング」で1位に輝いたこともある。
開業は2009年。体調を崩した創業者から14年に経営を引き継いだのが、札幌で会社員をしていた高野さんだった。温泉愛好家として各地を巡った高野さんは、これ以上家族経営の温泉が廃業するのを防ごうと、脱サラして自ら経営に乗り出した。
国の給付金、「1回きりでは解決にならない」
小さな施設で飲食を提供する余地はなく、収入は650円の入浴料のみ。1人で接客や掃除をこなしたが、お湯を使い回す循環濾過(ろか)をせず、25度前後の源泉を加温し続けるため光熱費などの固定費が月30万円近くかかる。客足が見込めない状況では、営業するだけ赤字がふくらむ。個人事業主向けの国の持続化給付金100万円の申請も考えたが、「1回きりでは根本的な解決にならない」。
18年9月の北海道地震や冬の凍結によるボイラーの破損。設備の修理を手伝ってくれる常連客もいて、幾度となく訪れた危機を乗り越えてきたが、今回ばかりは打てる手がなかった。「上から落ちてきた大きな石につぶされた感じ。どうにもできず、むしろあきらめがつく」と高野さん。このまま廃業するかどうかは夏までに結論を出すという。
「傷が浅いうちに」 心折れる経営者が心配
これまで北海道経済を潤してきた観光客が消え、外出自粛で地元客も失う状況が続き、多くの事業者が経営難に陥っている。東京商工リサーチの集計(20日時点)では、新型コロナ関連の倒産は北海道が16件で、東京の36件に次ぐ。これには高野さんのような個人事業主は含まれていない。
地域の金融機関には運転資金の相談が相次いでいる。そのうちの一つ、北洋銀行(札幌市)には今月10日時点で融資の相談が8千件(約2400億円)にのぼる。安田光春頭取は、融資に積極的に応じる考えを示すが、特に心配しているのは小規模な事業者だという。「新たな借り入れをせず、『傷が浅いうちに』と考える経営者が出てくる恐れがある」
月5千万円の家賃 「このままでは雇用守れない」
地域の雇用を支える中小企業…

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