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 新型コロナウイルスの感染確認のために続けられているPCR検査。政府は「1日2万件」を掲げてきたが、各国に比べ、検査数は圧倒的に少ない。検査の担い手不足という「人的な目詰まり」を政府は理由に挙げてきたが、それだけではない。検査材料の確保にも課題を抱えていた。

 大阪府民のPCR検査を担う大阪健康安全基盤研究所(大阪市)の本村和嗣ウイルス課長は5月上旬、検査で欠かせない試薬類の確保に頭を悩ませた。「発注どおりの数が来ない。クラスター(感染者集団)がいくつか発生すると余裕がなくなる。そういう事態に備えて余裕を持ちたいのだが……」。5月半ばに入り、新規の感染者数は減る傾向にあるが、まだ危機感はある。PCR検査を行う東日本の病院の医師も、「一時は、試薬の納品まで1、2週間かかるといわれた。10箱頼んでも最初に届くのは3、4箱だった」と話す。

 PCR検査では、鼻やのどから採った検体にウイルスの遺伝物質があるかないかを調べる。新型コロナは遺伝物質をRNAという分子で持っており、このRNAを抽出し、DNAという別の分子に変換して増やす。各段階で何種類もの試薬が必要になる。

 一度に多くの検体を短時間で処理できる機器を使う場合、各段階で必要な試薬や備品が一度にそろうキットの使い勝手がいい。国内では、海外製の機器のシェアが高いこともあり、キットも同様に海外メーカーのシェアが高いという。

 こうした「輸入頼み」が一時期、試薬の品薄感を招いた一因とみられている。

 検査は「入り口」から「出口」まで、いくつもの工程がある。感染者が急増した3月から4月にかけては、医師が必要と判断しても検査できないケースが相次いだ。相談を受け付ける保健所がパンクし、検査センターなども未整備だったため、「入り口」に近い部分が目詰まりしてしまったのだ。

 それに加え、より「出口」に近い検査そのものに使う試薬不足も重なった。メーカー大手の日本法人の担当者は、4月は特に「国内の需要に追いついていなかった」と認める。新型コロナの影響で空輸便が不安定になり、日本国内に入るまでに日数がかかったためだ。必要な量は生産できているといい、「一時、トイレットペーパーが店頭で品切れになった状態と似ている。今は品薄感は解消されている」と説明する。

 検査で必要となる試薬類については、各メーカーで開示される情報が異なり、国内需給の全体像をつかみにくい。厚生労働省の担当者は、輸入の遅れなどで品薄になったことを認めつつ、現在は「十分満たせる供給量を確保できている」という。

 気がかりなのは今後だ。検査薬業界の関係者は「日本は流行が先に拡大した欧米に、試薬の確保で後れをとった。3月に政府がPCR検査を積極的にやる姿勢でなかったことも大きい」とそもそもの問題点を指摘する。さらに「各国とも次の波に備えており、海外からの試薬確保の課題は、今後も変わらないのでは」とみる。

 国内の感染拡大前から自国の企業に開発を要請した韓国では、未承認の医療機器でも一時的に流通を認める制度を使って大量の検査キットをそろえ、4月には米国向けに輸出もした。

 日本でも海外製品頼みの現状を改善するため、国内メーカーが動き出した。タカラバイオ(本社・滋賀県)や富士フイルム和光純薬、東洋紡(いずれも本社・大阪)などが開発、生産態勢を強化。富山県に製造拠点を持つニッポンジーン(本社・東京)は、4月下旬から、研究用試薬について公的医療機関などに10万検体分のRNA抽出キットの無償提供を始めた。

 しかし、試薬だけ増産できても問題が解決するわけではない。検査事情に詳しい国立病院機構仙台医療センター臨床研究部の西村秀一・ウイルスセンター長は「国内で試薬が増産されるのは喜ばしいが、使える機器が限られ、その生産も主に海外が握ってきた。試薬のキットと機器の相性もあり、設備を更新したり新規導入したりするにも各施設に購入の余裕があるかどうか」と難しさを指摘する。

 日本医師会の新型コロナ有識者会議が設置したPCR検査に関するタスクフォースは今月中旬、中間報告書をまとめた。PCR検査の試薬については「海外に依存し、輸入の見込みがたたない」などと言及。「安定した機器・試薬供給のため、国家戦略的な国内医療産業基盤づくり」が必要だと提言している。(熊井洋美)