「命が一番大事」「可能性あるなら…」 中止に監督も涙
昨夏の全国選手権で初優勝した履正社(大阪)は、2年連続の優勝がついえた。休校中のため、電話で代表取材に応じた岡田龍生監督は「生徒のことを考えれば安心・安全を優先すべきだと思う。安全面を一番に考えての判断を尊重したい」と話した。
「春夏と戦わずして負けたような形になってしまった。(部員に)かける言葉も見当たらない」。昨夏の甲子園で準優勝し、今春の選抜大会も出場を決めていた星稜(石川)の林和成監督は落胆の表情を見せた。
先月8日から自宅待機している2、3年の部員54人を8グループに分け、体調や練習内容、勉強時間などを毎日LINEで報告させてきた。「再び決勝の舞台に立てるように冬の厳しい練習にも耐え、いいチームになった。だが、そのチームを披露することなく終えるのは非常に残念」と語った。
今春の選抜大会に21世紀枠で出場予定だった磐城(福島)の渡辺純監督は4月に就任したばかり。「甲子園という目標は失ったが、このメンバーで野球ができるのも夏まで。とにかく環境が落ち着いたら、まず一緒に野球をやりたい」と力を込めた。
5季連続の甲子園出場がかかっていた明石商(兵庫)の狭間善徳監督は「関係者の方々がどうやったら開催できるか、一生懸命模索してくれたことに感謝したい。命が一番大事。致し方ない」。現在も休校中で、選手らはオンラインで練習成果を報告しあうなどしながら、自主練習に励んでいる。中止決定について選手らには「目を見て話したい」といい、学校再開後に話すつもりだという。
今春の選抜大会には5年ぶり29回目の出場を決め、夏の大会でも活躍が期待されていた県岐阜商。中止決定を受け、取材に応じた鍛治舎(かじしゃ)巧監督は「まだ学校も再開されない中で部活動をやっている場合ではない」と声を振り絞った。
自身も同校で甲子園に出場し、テレビ中継の解説者としても長年甲子園に関わってきた。「救済策という話もあるが、甲子園に代わるものはない」としつつ、「100分の1、1000分の1でも可能性があるなら、選抜大会や夏の大会のやり直しをさせてあげたい」と目に涙を浮かべた。
選抜大会は21世紀枠で初の甲子園出場が決まっていた平田(島根)。植田悟監督は電話取材に応じ、「予期はしていたが、いたたまれない」と本音を口にした。野球部は先月17日から活動休止が続く。「大好きな野球が全力でできる。3年生の引退までにそんな日を迎えられるようになってほしい」と話した。
一昨年から2年連続で東東京大会で準優勝した都立校・小山台の福嶋正信監督は「今年こそはと思っていたので本当に残念。戦わずして終わってしまったが、大切なのは命。受け止めるしかない」と話した。
3月中旬から全体練習ができなくなった後も、部員は1日3時間の自主練習をして夏に備えていたという。「『甲子園をめざす』という姿勢は、目標を持って精いっぱい生きることにつながる。気持ちを切り替えられるような言葉をかけたい」と話した。
全国選手権で5回優勝の実績を誇る大阪桐蔭。西谷浩一監督は「甲子園で日本一になるために、大阪桐蔭に来た子たち。ここまでつらい練習をさせてきたのに、何もさせてやることができない。監督として、中止に対して何もすることができない。無力さも感じている」と語った。
明徳義塾(高知)のグラウンドでは、20日夕、馬淵史郎監督が約100人の部員に説明を始めた。「お前らが目標にしとった大会がない。非常に残念でたまらん」。部員が過ごす寮生活では、検温や消毒を徹底した。食事の際の距離などにも注意を払い、「最後の夏」に望みをかけていた。馬淵監督は目を赤くした部員に向かい、語りかけた。「3年生は夏休みまでは普段通り練習をやる。忘れんなよ、世の中に出て苦しいことがあった時、耐えていける精神力をつけるというのが高校野球なんや」
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