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 夏の甲子園大会の中止が決まった。新型コロナウイルスの影響で練習もままならない高校球児たちは、活躍をアピールする場も失った。30人以上のプロ野球選手を輩出してきた宮城県の仙台育英は、監督自らが選手のプロモーションビデオ(PV)を作製。進路への不安を抱える部員たちの支援に乗り出している。

 PVが始まると、強豪校の戦力を分析したボードが掲げられた同県多賀城市の室内練習場が映し出された。「いいよ」。部員から声がかかると、佐々木涼君(3年)は力強くスイングを始めた。後ろから、横から。今年冬に撮った異なるアングルからのティー打撃だ。

 場面は切り替わって、昨年秋の東北大会。4安打1打点だった準決勝に続いて、決勝で2点本塁打。右翼席に打球が吸い込まれる映像に合わせて、「ホームラン!」と大文字のテロップが流れた。計1分8秒。

 野球で大学進学やプロをめざす部員のために、須江航(わたる)監督(37)が作ったPVだ。3月中旬、出場が決まっていた春の選抜高校野球大会の中止が決まった直後から、編集を始めた。「スカウトの目にとまる機会がなくなる」との危機感があった。

 情報科教諭で、部員たちとは普段からアプリを使って、個人の試合成績や投手の球数を管理。打撃や守備の動きを確認するための映像も日常的に撮りためていた。部員のアピールポイントとなる過去の大会の中継映像なども組み合わせて、5月までに30人弱分を作製。宮城県内だけでなく、東京や大阪などの大学・社会人の20チーム以上に送っている。

 仙台育英は春夏合わせて41回の甲子園出場を誇る名門だ。上林誠知(ソフトバンク)や由規(楽天)らプロで活躍するOBたちを追うように、県内外の有力選手が100人以上集まる。

 だが、コロナ禍で4月中旬から全体練習ができなくなり、今は寮生を含む部員全員が実家に帰省。3年生40人のうち30人弱がプロや大学などでプレー継続を希望しているが、進路を決めきれていない部員も多いという。

 選抜高校野球大会はプロのスカウトにアピールする場とも捉えていた。有力な大学のなかには、公式戦の出場実績がスポーツ推薦の出願資格になっているところもあるのに、公式戦自体がない。ある大学の担当者は「例年とは違う形になる可能性もあるが、検討中だ」と話す。

 チームの主力選手の一人(3年)は実家に戻って、走り込みや投げ込みなどで1日3時間ほど汗を流している。プロ入りを希望してきたが家族との話し合いで、大学進学が自分の将来の助けになるかもと考えるようになってきた。その矢先の中止決定。「どういう判断になっても受け入れる覚悟はできていた。高校野球を完結させるため、プレーは続けたい」

 高卒でプロをめざすのか、それとも推薦を得て進学か。就職か。受験勉強か……。須江監督はビデオ会議アプリを使った三者面談も進めている。「大会がなくなって『悲しい』だけで終わってはいけない。生徒を希望の進路に送り出してあげたいという思いだ」と話している。(大宮慎次朗)