卑弥呼の食卓からすし・カレーまで 和食の世界をのぞく
色彩も味わいも豊かに多様化している和食。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、朝日新聞社などが主催する特別展「和食」(東京・上野の国立科学博物館、当初の会期=3月14日~6月14日)の開催を中止しましたが、和食への関心は高まりつつあります。展覧会を監修した和食文化学会の佐藤洋一郎会長に、コロナ禍で考える「食」の役割を寄稿して頂きました。併せてご観覧頂けなかった特別展の「エキス」を届けます。
トントンとネギを刻む音、みそ汁や焼き魚の匂い。和食といえば、どんな光景を思い出しますか。あなたにとって和食って何ですか? すしや天ぷらから、すき焼き、あんパン、カレーライスまで多彩に多様に広がる特別展「和食」の世界へどうぞ。
和食の食材の定番は、米や魚、大根、大豆などだ。コンブやカツオブシでとった、だしも欠かせない。
日本列島は食材が豊富だ。マグロ属は世界で8種、日本近海ではクロマグロやメバチなどの5種がとれるという。全長約3メートルのクロマグロの実物大模型は迫力がある。1986年に種子島沖でとれたものを模した。胴回り約2・4メートル、重さ496キロは東京・築地市場で取引された中で過去最大級で、347万円の値がついた。
つるんとした体は、紡錘(ぼうすい)形。展示を担当した国立科学博物館の中江雅典さんは「広大な外洋でエサを追い、カジキなどの敵から逃げなければならないため、水の抵抗が少ない形に収斂(しゅうれん)したのです」と解説する。
模型をつくったのは、川崎市の造形会社「アップ・アート」。マグロを制作した上松浩之さんは「恐竜など古代生物や架空のキャラクターとは違う苦労があった」。図鑑にはマグロを横から撮影した写真があるが、他の角度はほとんどない。写真も水揚げ後に撮られたものが多く、泳いでいる時の状態は分かりにくい。動画を見たり、中江さんに過去の論文を調べてもらったりして、細部を仕上げたという。
海藻のコーナーでは、ヒジキや赤いトサカノリの押し葉標本を展示。アサクサノリやワカメなどの海藻はガラスに挟んで飾られ、全長15メートルのナガコンブも天井でゆらゆら。
和食の成り立ちも系統立てて紹介。参勤交代制が敷かれた江戸時代には全国から単身の男性が集まり、外食文化が発達した。落語でおなじみのそば屋の屋台のほか、すし、天ぷらの屋台も広まった。天ぷらは立ち食いに向く串揚げ、握りずしは今よりもかなり大きめだったという。
明治時代は食も文明開化。1887年に明治天皇がドイツからの賓客を招待した午餐(ごさん)会では、トリュフ入り七面鳥のローストなどのごちそうでもてなした。
圧巻なのは、包丁やまな板、ざる、すり鉢、おたま、おろし器、鍋など、和食で使う様々な道具が展示されたゾーン。創意と工夫によって、まさに人の手が生み出した食文化だということが実感できる。
すしの多国籍化も面白い。米国やスペイン、トルコ、タイ、ケニアなど世界の「スシ」を写真で紹介。マヨネーズで飾られたり、お菓子のようにポップだったり。世界で愛されるスシには様々な表情がある。
総展示数は500件以上。和食の「輪」が時代を、国境を超えて広がっていく。コロナ禍に負けない未来に向けて、これからどんな味が築けるだろうか。
「食べる」の本質につけ込むコロナ
京都在住で、京都府立大学で教えている和食文化学会の佐藤洋一郎会長に、5月13日に寄稿を頂きました。
「京都の街から」…
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