卑弥呼の食卓からすし・カレーまで 和食の世界をのぞく

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【パノラマ写真】特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」=2020年4月23日、高橋敦撮影
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 色彩も味わいも豊かに多様化している和食新型コロナウイルス感染拡大防止のため、朝日新聞社などが主催する特別展「和食」(東京・上野の国立科学博物館、当初の会期=3月14日~6月14日)の開催を中止しましたが、和食への関心は高まりつつあります。展覧会を監修した和食文化学会の佐藤洋一郎会長に、コロナ禍で考える「食」の役割を寄稿して頂きました。併せてご観覧頂けなかった特別展の「エキス」を届けます。

 トントンとネギを刻む音、みそ汁や焼き魚の匂い。和食といえば、どんな光景を思い出しますか。あなたにとって和食って何ですか? すしや天ぷらから、すき焼き、あんパン、カレーライスまで多彩に多様に広がる特別展「和食」の世界へどうぞ。

 和食の食材の定番は、米や魚、大根、大豆などだ。コンブやカツオブシでとった、だしも欠かせない。

 日本列島は食材が豊富だ。マグロ属は世界で8種、日本近海ではクロマグロやメバチなどの5種がとれるという。全長約3メートルのクロマグロの実物大模型は迫力がある。1986年に種子島沖でとれたものを模した。胴回り約2・4メートル、重さ496キロは東京・築地市場で取引された中で過去最大級で、347万円の値がついた。

 つるんとした体は、紡錘(ぼうすい)形。展示を担当した国立科学博物館の中江雅典さんは「広大な外洋でエサを追い、カジキなどの敵から逃げなければならないため、水の抵抗が少ない形に収斂(しゅうれん)したのです」と解説する。

 模型をつくったのは、川崎市の造形会社「アップ・アート」。マグロを制作した上松浩之さんは「恐竜など古代生物や架空のキャラクターとは違う苦労があった」。図鑑にはマグロを横から撮影した写真があるが、他の角度はほとんどない。写真も水揚げ後に撮られたものが多く、泳いでいる時の状態は分かりにくい。動画を見たり、中江さんに過去の論文を調べてもらったりして、細部を仕上げたという。

 海藻のコーナーでは、ヒジキや赤いトサカノリの押し葉標本を展示。アサクサノリやワカメなどの海藻はガラスに挟んで飾られ、全長15メートルのナガコンブも天井でゆらゆら。

 和食の成り立ちも系統立てて紹介。参勤交代制が敷かれた江戸時代には全国から単身の男性が集まり、外食文化が発達した。落語でおなじみのそば屋の屋台のほか、すし、天ぷらの屋台も広まった。天ぷらは立ち食いに向く串揚げ、握りずしは今よりもかなり大きめだったという。

 明治時代は食も文明開化。1887年に明治天皇ドイツからの賓客を招待した午餐(ごさん)会では、トリュフ入り七面鳥のローストなどのごちそうでもてなした。

 圧巻なのは、包丁やまな板、ざる、すり鉢、おたま、おろし器、鍋など、和食で使う様々な道具が展示されたゾーン。創意と工夫によって、まさに人の手が生み出した食文化だということが実感できる。

 すしの多国籍化も面白い。米国やスペイン、トルコ、タイ、ケニアなど世界の「スシ」を写真で紹介。マヨネーズで飾られたり、お菓子のようにポップだったり。世界で愛されるスシには様々な表情がある。

 総展示数は500件以上。和食の「輪」が時代を、国境を超えて広がっていく。コロナ禍に負けない未来に向けて、これからどんな味が築けるだろうか。

「食べる」の本質につけ込むコロナ

 京都在住で、京都府立大学で教えている和食文化学会の佐藤洋一郎会長に、5月13日に寄稿を頂きました。

 「京都の街から」…

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