おめでタイ行事が減少… 愛媛のタイ養殖業者が大ピンチ
新型コロナウイルスの感染拡大で、国内最大の養殖マダイの産地、南予地方の漁業関係者が苦境に陥っている。「桜鯛(さくらだい)」として需要が多い時期にコロナ禍が直撃した格好で、宇和島市など養殖業者が多い自治体では、独自の支援策を打ち出すところも出てきた。
「卒業式や入学式、結婚式……。この時期にタイを使うお祝い事がコロナで全部なくなったのが痛い」。年間に15万~20万匹の養殖マダイを出荷するという養殖業者の男性は、宇和海に浮かぶいけすを見ながらつぶやいた。
男性が家族と経営する養殖会社では、養殖マダイの4月の出荷量は前年比4割減、一昨年以前の5年平均と比べると約6割減だという。昨年初めに1キロ1100円だった市場の卸売価格は、需要の落ち込みから500~600円程度まで下落。養殖マダイの損益分岐点は700~800円程度のため、数年かけて育てたタイが利益を生む状況ではなくなった。
今年4月の売り上げは会社全体で760万円減にもなるという。もらえる可能性がある給付金などはすべて申請したが、男性は「5月末が限界。6月までいくと打つ手がないのが素直な気持ち」と打ち明けた。
養殖マダイの生産量が全国シェアの5割以上を占める一大産地の愛媛県。生産量は県全体で年間約3万4千トンにのぼる。このうち年間約1万9千トンの出荷量がある宇和島市は、独自の支援に乗り出した。
5月12日から市の公式ホームページで「#鯛たべよう」キャンペーンを開始。名物「宇和島鯛めし」や「鯛そうめん」などのレシピを紹介し、地元のタイの購入や消費を呼びかけている。また、市内産の23・5トンの養殖マダイを給食や病院食に使うため、約2460万円の予算も組んだ。
隣の愛南町の愛南漁協は18日から、町内の養殖業者を支援するため、インターネットで個人向けに養殖魚を販売する公式オンラインショップ(http://www1.enekoshop.jp/shop/jfainan/)を開設した。町内で養殖されたマダイやスマ、サツキマスを3500~1万2千円(税込み)で販売している。
産地の苦境に県漁業協同組合連合会(県漁連)も気をもむ。マダイ養殖に詳しい関係者によると、マダイは年末年始と春が「2大需要期」。それにあわせて養殖しているため、出荷できずにいけすが空かず、新たな稚魚が入れられないなど、売り上げ減以外の影響も出始めているという。
「場所によって水温に違いがある宇和海全体で養殖しているため、どの時期でも決まったサイズのタイが出せる。それが愛媛県の強み」と関係者。しかし、「今回の騒動で狂ったサイクルは、簡単には戻らないだろう」と話している。(藤家秀一)
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