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 「やっと自分たちでやれるときがきた」。帝京長岡(新潟)の主将でエースの吉田行慶(ゆきよし)(3年)は春ごろから、公式戦に出られる喜びを表す言葉を日誌につづるようになっていた。

 吉田は昨年4月に帝京(東京)から来た転校生。捕手の西村俊亮(しゅんすけ)(3年)も一昨年12月に浦和学院(埼玉)から加入した。引き抜き防止を狙いとした規定により、2人は昨年、公式戦に出られなかった。だから、今夏の新潟大会は待ちに待った試合だった。

 「昨年は負けた試合をスタンドから見ていて、投げられない悔しさを味わった。いろいろな思いを糧にしてきた」と吉田は言う。

 芝草宇宙(ひろし)監督(50)は1987年夏、無安打無得点試合を達成して甲子園をわかせた帝京の元エース(のちに日本ハム)。2人の振る舞いに注目していた。「昨年は大会が近づけば練習試合にも出しづらかったが、2人は素直に受け入れてくれた。みんなでチームを強くしようという意思を持っていた。主将にしたのも吉田が冷静に周りを見ていたからです」

 今回の決定に「ショックで言葉がない」と吉田。情熱家の西村ともメールを交わしたが、「悲しそうでした、自分より。お互い気持ちを整理するのに時間がかかると思います」。ただ、今後の思いも絞り出した。「帝京長岡には感謝しています。今後も、恩返しができる野球人生にしたい」

 唐津工(佐賀)は部員37人のうち、3年生は一塁手の磯崎大翔(ひろと)だけだ。「1人でよくがんばってきた」。20日、副島浩史監督(30)は円陣で中止を伝えたあと、磯崎に声をかけた。

 「選抜が中止になり、もしかしたら夏も、と思った」と磯崎は目を伏せた。「だけど、そんなことを考えたらチームが悪い雰囲気になると思い、夏はあると信じてやってきました」。担任でもある監督に激励され、やめたい気持ちを抑え込んできた。就職志望で、野球に打ち込むのは最後かもしれない。「このあと何か大会があるなら、やってきたことをぶつけたい」

 副島監督は佐賀北の2007年全国制覇メンバー。決勝で逆転満塁本塁打を放ち、高校生が秘める力を満天下に示した。「行けば人生が変わる」と甲子園の魅力を知っている。「甲子園を目指してやったからこそ涙が出る。ああ、届かなかった、と。自分も一つ上の代が負けたときに涙が出た。ただ高校野球をやって、何か悔しく思えるのかなあ」。磯崎だけでなく、全国の3年生を思いやった。(坂名信行、隈部康弘)