中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が22日、開幕した。2カ月半の延期を経て、ようやく行われた李克強(リーコーチアン)首相の政府活動報告は、「守り」の姿勢が目立つ内容となった。習近平(シーチンピン)指導部に求められるのは新型コロナウイルスの感染抑制と経済の落ち込みを防ぐ「二正面作戦」だが、道のりは険しい。
「人民が壮絶な努力と犠牲を払った結果、感染対策は戦略的成果を収めた」
人民大会堂に集まったマスク姿の代表らの前で、李氏は冒頭、共産党の指導による新型コロナ対応が正当だったと強調してみせた。
だが、中国の感染が終息したとは言い難い。世界で最初に感染が広がった武漢では無症状の感染者の確認が続き、今月初めには約40日ぶりに発症者も出た。市内を覆う恐れと不信をぬぐいたい地元当局は今、約1100万人の住民の「PCR全員検査」を進める。
町内会にあたる自治組織を動員し、団地の庭や商業施設の駐車場など様々な場所で検査が行われている。14日からの1週間で検査数は約300万件に上り、99人の陽性反応が出た。全員が無症状だったという。
武漢の封鎖は4月8日に解除され、商店は再開し交通渋滞も起きるようになった。しかし、相次ぐ無症状の感染者の確認は、ウイルスとの闘いが長くなることを市民に覚悟させている。
ホテル従業員の魏涛さん(29)は「ウイルスは常にいるという意識で自分を守る必要がある」と、家と職場だけを往復する生活を今も続ける。
1985年以来続いていた全人代の3月開催をあきらめた習指導部は開催のタイミングを模索し続けた。今回の会期は4月末に決定したが、党関係者は「さらに延期を求める声は直前まであった」と明かす。
李氏が活動報告で武漢市民の努力などをたたえ「人民に心から感謝したい」と寄り添う姿勢を示したのは、8万人以上の感染者と4500人以上の死者が出る中、政治を優先したと受け止められないための配慮にも見える。李氏は「一部の幹部に職責の不履行、能力欠如もみられる」と認め、改善も誓った。
一方、習指導部はこの非常事態のなか、国際社会の反発も承知で、昨年の党会議で宣言した香港の治安法制の整備に踏みきった。
全人代の開催には政権の安定を内外に示す狙いの半面、香港問題など対応を急がねばならない課題を抱えている事情もある。
党関係者は「多少の足踏みを覚悟しつつ、打つべき手を打つ我慢の時だ。共産党体制の優位性が揺らぐことはない」と強調する。
習氏は2017年の党大会で、改革開放を続けた鄧小平時代の「豊かになる時代」から「強くなる時代」に移行すると宣言した。だが、政権への信任の礎である経済成長の落ち込みは避けられない。さらに新型コロナは情報開示をめぐる政権への不信、米国との対立など新たな問題ももたらした。
強国の道を突き進んできた習指導部だが、大きな岐路に立たされている。政府活動報告でも、雇用や食糧の確保といった「六つの保障」が新たに掲げられるなど、これまでにない守りの姿勢がにじんだ。(北京=冨名腰隆、武漢=平井良和)
■米中関係、不安の…
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朝日新聞国際報道部