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 京都・祇園。19日、四条通に面した大きなのれんをくぐると、広々とした店内に客の姿は少なかった。

 「志村けんさんが亡くなって、4月に一気に人がいなくなって」

 約300年の歴史を持つ老舗菓子店「鍵善良房(かぎぜんよしふさ)」。60席分の喫茶コーナーも備える本店で、15代当主の今西善也(ぜんや)さん(47)はそう話した。

 のど越しの良いくずきりや、竹筒入りの水ようかん「甘露竹(かんろたけ)」、色とりどりの落雁(らくがん)を箱につめた「園(その)の賑(にぎわ)い」や和三盆の干菓子「菊寿糖(きくじゅとう)」などで名をはせる店だが、新型コロナウイルスの影響はやはり否めない。

 だが、2階の工房の様子は違った。7人ほどの職人が白い作業服姿で忙しそうに生地をこねたり、成形したり。そうしてできたねりきり製の白こしあん「山法師(やまぼうし)」などの生菓子を一つ一つ、プラスチックの容器に詰めていた。4月に始めた生菓子発送サービスの作業だ。

 「創業以来はじめての取り組みです。形が崩れるリスクはあるけど、食べたいと思ってくれる人に季節感を感じてほしかった」と今西さんは言う。

 これまで生菓子は店頭販売と喫茶での注文に限ってきた。年商3億~4億円の同店の主力商品で、職人技で作られた繊細さを存分に味わってもらうためだ。

 3月、そんな商環境が崩れた。神社仏閣での法事や法要、茶会などが中止となり、進物のキャンセルが相次いだ。花見時期も店の前の人通りは消え、近所の歌舞伎・南座の公演も軒並み中止に。言わずもがな、店の売り上げは激減した。

 先代の父からは「長いことやっていると、こういうこともある。焦っても仕方ない」と言われたが、悩んだ。「材料もあって人もいるのに、お客さんがいない。どうすれば」と。

 3月下旬、生菓子の発送をしていなかったと気づいた。やっている和菓子店も聞いたことがなかった。

 30年以上働くベテラン職人と相談し、一つずつカップに入れて乾燥を防ぎ、緩衝材を入れてなるべく動かないようにできることを確かめ、実施を決めた。

 発送翌日に届く地域限定だが、京都のほか、東北や九州から1日10~30件ほどの注文が入るように。「京都の春が届いた」「コロナで窮屈な生活の中、幸せな気分になった」といった声がSNSで届き、「こっちも励まされる」。5月中旬からは、冷やしても固くなりにくい菓子をクール便で発送し始めた。

 「コロナがきっかけで、一つの商売の形ができた。終息後、売り方も変わっているかもしれない」

 まだ全面復活とはいかないが、今西さんは少しずつ、老舗としての自信を取り戻している。同じく苦境にあるほかの老舗和菓子店も応援しようと、4月18日には11店の営業情報をまとめて発信するページ「京都 山水會(かい)」も作った。

 「300年の間にいろんな変革の時期があったと思うが、今年もその一つ。この機会で変えないとあかんところは変えていく。京都は文化で支えられている。ゼロにしてしまうと、元通りにはならない。厳しいなりにも、菓子の伝統文化や雇用を守っていかないといけない」

     ◇

 新型コロナなどの感染症に負けない免疫力を意識して、発酵食品を材料に新商品「半熟松風(まつかぜ)」を3月に作ったのは、京都市上京区のあられ専門店、宗禅(そうぜん)だ。

 「松風」は白みそや小麦粉、砂糖を練って焼く京菓子。一方、半熟松風は府産米キヌヒカリの米粉、大徳寺納豆、西京味噌、3種のチーズ(ゴルゴンゾーラ、チェダー、クリーム)、抗菌作用があるとされる果物・柚香(ゆこう)を使う。常温ならカステラのように、冷やせばレアチーズケーキのように、食感が変わるという。

 店主の山本宗禅(そうぜん)さん(46)は「(コロナ禍の中で)お菓子屋として何ができるか、考えていた。食べた人を笑顔にしたくて、発酵食品を使いやすい松風だと思った」と話す。

 宗禅は2000年11月創業。京菓子業界では歴史は浅い方だが、山本さんは曽祖父の代から続く大阪のおかき屋の出身でもある。伝統の技術を生かして約1カ月間試行錯誤し、完成させた。「どれかの味が勝つとおいしくない。バランスを合わせるのが難しくて、20回は作り直した」と笑う。

 手作りのため、1日二つ入りの15セット限定。1セットは送料込みで3980円(税込み)だ。感染拡大防止のため、通信販売のみで3月中旬に売り始めると、4月上旬にはリピーターもつき、完売する日も出始めた。

 山本さんは4月、休業で多くの菓子が返品される現状を前に「救援プロジェクト」も立ち上げた。今月23日までに3回、近畿の菓子店約10店に声をかけ、各店のあられやバウムクーヘン、まんじゅうなどを詰め合わせにして、定価の6割引きでネット販売。4千セットが完売した。発送費を合わせると宗禅としては赤字だが、今後も商品が集まれば実施予定という。

 それでも宗禅の4月の売り上げは前年の一割にも満たない。山本さんは「助け合わないと生き残れない。自分の技術を守りつつ、団結して食文化を守らないといけない」と話す。(高井里佳子)

時代とともに 京の奥深さ 京菓子資料館・成岡あゆみさん

 和菓子は本来は甘いものでなく、餅や木の実から作ったものだった。戦国時代に海外の文化が入り、カステラや金平糖など甘いものが生まれた。今の時代に近いものになったのは、江戸時代のことだ。

 いまや全国の百貨店で売られるほど人気の京菓子には、四季や行事を大切にする京都人の美意識が反映されている。

 色は淡めのものが多い。茶道で主役のお茶より目立たないようにするためだ。その色で季節感を表す。例えば、そぼろ状のあんを付けた「きんとん」。春はピンク、夏にかけて緑や青に、といった具合だ。

 菓子の名前は和歌にちなむものが多い。菓子を見て、名前を聞いて、想像を膨らます。その想像を邪魔しないよう、抽象的な形が好まれる傾向がある。

 こうした伝統的な和菓子を作る老舗が多い一方で、現代の意匠に合わせた可愛らしい菓子を作る店も。両者が混ざり合う点が京都らしい。全国の人を引きつける理由の一つなのだろう。(聞き手・高井里佳子)

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