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 イスラム教徒(ムスリム)が1カ月間、日の出から日没まで飲食を断つ「ラマダン」(断食)が、23日に終わった。コロナ禍で迎えた今年のラマダンは、夜間の食事を楽しむ行事やモスクでの礼拝もできなかった。県内のムスリムたちはどのように過ごしたのか。

 金曜日の午後7時、日没までの断食を終えたムスリムたちが画面上に集まった。ラマダンの間、日没後に家族や仲間と楽しむ食事「イフタール」。本来なら、モスクに料理を持ち寄るが、今年の会場は画面の中だった。

 オンライン空間には、日本で暮らすムスリムの留学生や移住者ら34人が集った。ネット上なので遠く離れたインドネシアやマレーシア、インド、フランスからの参加者もあった。「オンライン・イフタール」の始まりだ。

 「コロナの感染状況はどう?」「今はテレワークしているの?」。それぞれの国の状況やムスリムの生活環境などを語り合う。画面にはラマダンを終えてリラックスするムスリムたちの姿があった。

 「これから断食なんだけど……」。時差があるフランスに住む女性がつぶやく。日本のムスリムが「頑張って」とエールを送った。

 オンライン・イフタールは、モスクが閉鎖される中、一人暮らしの留学生らが集まれる場として発案された。発起人はフード・ダイバーシティー社(東京)のナザヤ・ズライカさん(30)とインターン留学生ザフィラ・アキラさん(19)。

 コロナ禍の孤独なラマダンを乗り切るための企画は「地球の向こう側にいる人ともイフタールを共有できる素敵な時間になった」(ナザヤさん)。「ムスリム同士は姉妹だ」との教えのままに、今までつながりのなかった人とも交流が生まれた。

 オンライン・イフタールでは毎回、ゲストが講演する。静岡ムスリム協会・事務局長のアサディみわさん(45)もゲストとして協会の活動などを紹介した。

 協会は昨秋、静岡市駿河区にモスクを完成させた。今年はマグリブ(日没礼拝)後に、自前のモスクでイフタールを予定していたが、多くの人が集まるモスクは閉鎖せざるを得なかった。「ムスリムにとって、ラマダンは同胞愛が強まる1年で最も大事な時期だが、今は命を守ることが最優先だから」

 代わりに、アサディさんらは、閉鎖したモスクの前にフードボックスを置いた。「ラマダンは施しの月。今年は会って食事を分け合うことができない分、モスクを訪れた人の助けになればと思った」。ムスリムは戒律で認められたハラール食しか食べられない。コロナ禍で食事の用意に苦労する人を案じてのことだ。

 新型コロナウイルスは、人との距離を遠ざけた。離ればなれの厳しい生活は、一方で、互いを思いやる気持ちを強くし、心の距離を近づけた。

 ムスリムが多いインドネシアで活躍するサッカー選手、松永祥兵さん(31)=三島市出身=は、県内のムスリムが働く企業を訪問し、コロナ禍の近況を聞き取る活動を始めた。

 「外国人として現地で支えてもらった分、日本で逆の立場にいるムスリムを少しでも元気づけたい」

 御殿場市の企業では、感染が拡大する母国でラマダンを過ごす家族のことを心配する声が多く聞かれた。

 本来なら松永さんは、イフタールを楽しむ仲間たちに積極的に交ざって、談笑する。「今年はモスクにも人がいないラマダンだが、こんな状況でも前向きに今を楽しんでほしい」

 ムスリムの生活文化を研究する静岡県立大の富沢寿勇特任教授(文化人類学)は、コロナ禍のラマダンが、ムスリムのコミュニティーやネットワークに変化を与える可能性を示唆する。

 「家族やモスク近隣の人にとどまらず、オンラインなどで交流が広がることで、ムスリムの社会的な空間やつながりが変容していくかもしれない」(戸田和敬)