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 地域の重症患者や高齢者を支える在宅医療。コロナ禍にあって、医師や家族はどう患者に向き合っているのか。都内で訪問診療をしている医師に同行した。

 「顔色もいい。元気そうですね」。えびす英(ひで)クリニック(渋谷区)の松尾英男医師が寝たきりの男性(50)に語りかけた。男性は先天性の脳症で1人では生活ができない。両親が看護してきたが、28年前に父親(77)が脳梗塞(のうこうそく)で半身不随に。今は母親(75)がひとりで夫と息子を見ている。

 2年前、母親がインフルエンザにかかったときは大変だった。「365日お願いしているヘルパーもケアマネもお願いできない。今同じことを起こしたらと思うと、本当に怖い」。ハンドジェルを家のあちこちに置いている。「買い物の外出も最小限。先生が来て、会話してくれるとほっとします」

 松尾医師の治療は、点滴や採血、気管カニューレの管理など、疾患によって処置は異なるが一番気を配っているのは「患者と家族の精神的ケア」だ。患者を診察するときは、家族と話す。いま何が不安なのか、雑談から見えてくることも多い。ただでさえ家族が在宅で見るのは大変なのに、新型コロナウイルスの感染拡大でデイサービスが受けられないと介護者も休めない。松尾医師は「外出の機会を失うことは、患者さんだけでなく家族も大変な思いをしているということです」と話す。

 病院のホワイトボードには1週間の往診予定がびっしりと埋まっている。松尾医師は定期的な訪問診療のため、1日に15軒ほど車で回る。このほか土日も含め、24時間対応の緊急往診も行う。「心配なときに電話がつながり来てくれた。それだけで家族は安心するし、信頼関係も築ける」と思っているからだ。

 90人ほどの患者の中には老老介護の夫婦もおり、1割は独り暮らしの高齢者という。日々の食事を運んでもらうなど、どうしても誰かに頼らざるを得ない。基礎疾患があると感染したときに重症化する恐れがあるため、不安と隣り合わせの生活を強いられている。

 CTやPCR検査など、訪問診療で出来ない検査や治療もある。緊急往診はするが、肺炎症状があり、コロナの疑いが強い場合、これまでのように継続して訪問診療できなくなってしまった。コロナ患者に対応できる病院につなげなくてはいけない。一方で、終末期医療の入院患者が家族と面会できず、訪問診療へ切り替えるケースも出てきた。

 訪問診療の患者は長期間闘病している人が多い。どんな治療をし、最期をどこで迎えたいか、本人や家族と何度も話し合う。松尾医師も年間30人ほど自宅で見とっている。病院なのか、家なのか。開業以来19年間、気持ちが揺れ動く家族に寄り添い、それぞれの歴史を見てきた。

 松尾医師は「今回のコロナが厳しいのは、容体が急変して家族が数日の間に判断を迫られること」と言う。「死生観を考える猶予もない。自宅で長く闘病し、最期は穏やかに家で迎えたいと思っていた人の思いがかなわないのは辛い」。だからこそ、感染者を出さないよう日々気を配っている。(川口敦子)