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 岡山県知事の定例記者会見で22日、初めて手話通訳がついた。コロナ禍の広がりに伴って記者会見に手話通訳をつける自治体が急増しており、これで47都道府県全てで手話通訳がついたことになる。総社市や岡山市は、県に先立ち市長会見に手話通訳をつけ始めており、「情報バリアフリー会見」が県内でもようやく広がり出した。(中村通子、華野優気)

 この日朝9時、伊原木隆太知事の記者会見が始まった。知事の隣に置かれたスクリーンに手話通訳者が映る。約2キロ離れた県聴覚障害者センターの通訳ブースと県庁をインターネット回線でつないだ遠隔手話通訳だ。

 知事の発表に続き、記者たちが次々と質問を繰り出す。県内のコロナ患者初確認から2カ月の思い、夏の高校野球大会中止についての感想など、何が飛び出すかわからない質問も、通訳者はよどみなく手指の動きに変えていく。

 コロナ以降、聴覚障害者への配慮として、知事は会見時に口元が見えるようマスクをはずし、県のホームページで配信する動画では字幕をつけている。だが、口の形だけでは全てを読み取るのは難しく、日本語字幕がよく理解できない人もいる。そのため、ろう者らでつくる県聴覚障害者福祉協会は4月28日に「知事会見に手話通訳を」という要望書を提出。約3週間後に実現し、関係者は「迅速な対応に感謝する」と喜ぶ。

 だが、要望から3週間、県内で患者が確認されてから2カ月後とは「十分迅速」とは言いがたい。他46都道府県は「コロナ対策では迅速正確な情報提供が重要」として、手厚さに濃淡はあるが、より早い段階で会見に手話通訳をつけている。コロナという災害対応で、県の「情報保障」の出足が遅れたことは明らかだ。

 県公聴広報課は「感染予防のため、ネット回線を経由した遠隔通訳方式にした。初めての試みなので機材の準備やテストなどに時間がかかった」と話す。

 この日、通訳を担ったのは県内有数のベテラン2人。試行を重ね準備していたが、ネット回線越しの通訳に「音声が途中で途切れないか、不安でした」と打ち明ける。幸い当日はトラブルはなかった。県の担当者は「きょうは第一歩。安定した通信回線など、よりよい方法を模索していきます」と話す。

 伊原木知事は手話通訳導入について「マスクを外し口元を見せる、という流れの延長でやってみた」と話した。

 総社市は4月28日、岡山市は5月13日から市長会見に手話通訳をつけている。岡山市の初日、記者に理由を聞かれた大森雅夫市長は「率直に言うと、私が思い至らなかった。指摘され、すぐ実施することにした。これからも続けていきたい」と説明した。

     ◇

 知事会見を録画中継し、県内のケーブルテレビ各社に配信している「oniビジョン」(本社・岡山市北区)は「知事の頭の高さと通訳スクリーンの高さがそろっているので、同時に写しやすかった。しっかり撮って必要な人に見てもらえるようにしたい」と話す。

 全国では、通訳の映像を画面隅の小窓に常時表示する「ワイプ」という方法を使う自治体も複数ある。だが、意外にも県聴覚障害者福祉協会の中西厚美会長は「そこまでは望まない」という。

 なぜか。

 中西会長は思いを語った。「あればいいと心から思うが、通訳が映るのを不快に感じる健聴者がいるかもしれない。視覚障害者のために音が鳴る信号に『うるさい』と苦情を言う人がいる。このように、私たち少数者は差別を受けやすい。堂々としていていいと思うのだが、簡単ではない。市民みんなが手話通訳は当然と理解する社会になって欲しい。そして、見たくない人はボタン一つで消せるような技術ができればいいと思う」