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 2019年3月26日は、筑陽学園(福岡)の野球部にとって記念すべき一日となった。選抜大会初戦で福知山成美(京都)を3―2で破り、春夏通じて甲子園初勝利。そのスコアブックを記したのが、マネジャーの松本みなみさん(3年)だった。

 約80人の部員の大半が部活動生向けクラスに所属し、放課後専用バスで約12キロ離れたグラウンドに向かう。だが、特進クラスに所属する松本さんは週に4回は7時間目の授業があり、選手と一緒のバスには乗れない。遅れて授業を終えると、370円を払って市営バスに乗り、約30分間かけてグラウンドに通ってきた。毎朝の補習も受け、課題もできるだけ、休み時間に終わらせた。勉強との両立を懸命に続けてきた。

 東海大福岡で甲子園に出た2歳上の兄の影響を受けてマネジャーを志したが、入学直後、入部を保留されている。江口祐司監督に「あなたは特進クラスだから学業第一。入部は成績を見て決める」と告げられた。「死ぬ気で勉強して」中間、期末テストで1位となり、入部がかなった。

 一度だけ、辞めたいと思ったことがある。18年9月に先輩マネジャーが退部。入部2カ月で全ての雑用を一人でこなすことになった。仕事に追われ、クラスの異なる同級生と打ち解ける時間もない。孤独を感じ「精神的につらかった」。

 だが、辞められなかった。甲子園に行きたい気持ちが勝った。怠慢なプレーは選手同士で厳しく指摘し合うが、得点すればみんなで盛り上がる。そんな雰囲気が大好きで、踏みとどまれた。そしてかなえた春の選抜、夏の選手権大会のベンチ入り。緊張で手を震わせながら、甲子園のベンチで書き込んだスコアブックは宝物だ。

 新型コロナウイルスの影響による休校期間中、選手に贈るユニホーム型マスコットの制作を後輩マネジャーと始めた。表に「筑陽」、裏にはそれぞれの好きな文字を入れる。夏の大会の開催を願い、自分の分は背中に「希望」の二文字を縫い込むよう頼んだ。

 選手権大会中止の発表から2日後の22日、江口監督は「最後まで選手を鍛える」と言い切った。速いペースでノックバットを振るい、主将の中村敢晴(かんせい)(3年)らが食らいつく。緊張感の漂う、いつも通りの練習風景だった。松本さんも練習の補助に入りつつ、飲料を用意し、補食用の米を炊き手際よく三角形に握った。

 夏の大会を戦うことはない。もう、甲子園のベンチにも入れない。でも、マスコットに入れる言葉は「希望」のままでいいと思っている。「今の希望は、最後みんなで笑って終わること。だから、希望のままでいいです」(河野光汰)