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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い続いてきた緊急事態宣言が解除され、徐々に以前の生活が戻ってくると予想される一方で、第2波、第3波を懸念する声も強い。ケガレやミソギなど「タブー」の深層心理学を研究する精神分析医で、元ザ・フォーク・クルセダーズのきたやまおさむさんに、文化人類学や精神分析、臨床の現場などの視点からコロナ禍と日本人を読み解き、次への備えについて語ってもらった。

拡大する写真・図版精神分析医で、元ザ・フォーク・クルセダーズのきたやまおさむさん=本人提供

1965年、ザ・フォーク・クルセダーズ結成に参加し、「帰って来たヨッパライ」(68年)でデビュー。解散後は作詞家としても活動。医学部に戻り、精神分析医となって九大教授、白鴎大副学長などを歴任。

自粛と自責の方向付けが有効だった

――今回のコロナ禍をどう見ていますか。

 日本人的な対処で、日本人的にほどよく対応している。私の周りの医師も医療資源の限界を一瞬感じたことはあったが、そこまで医療崩壊を起こさずに対応できているのではないでしょうか。

 日本人は清潔好きで、不潔を罪悪視する。まじめだし、自粛する。自分をおとなしくさせて、パニックを起こさず、粛々と行動する。日本人の「神話的思考」が感染症対策に有効だったんだと思います。

――「神話的思考」ですか?

 私の研究では、神話や昔話で繰り返し語られる物語から、自身の臨床の経験も交えて、多くの日本人に共通する深層心理を浮かび上がらせます。

 古事記のイザナキ・イザナミ神話や夕鶴など異類婚姻説話で、別れ話の悲劇として出てくる「見るなの禁止」というのがあります。夕鶴では、おつうは自らを隔離し、機織りで傷ついた姿を見ることを与ひょうに禁止するが、与ひょうは禁を破ってのぞいてしまう。神話で死にかけるイザナミも禁を破られ、恥をかいて怒るが、これを見たイザナキは汚い、醜いと感じる。そして、彼は「ケガレ」を恐れて、「ミソギ」を繰り返す。

 新型コロナは感染症なので、誰でも感染するリスクがあり、「不潔」なものではないことは大前提ですが、このような忌避心理が不潔恐怖や加害不安を生み、感染対策として機能した。現実面では、靴を脱ぎ、手洗いやマスクをするということになります。

拡大する写真・図版思い出深い九大創立五十周年記念講堂の前で=2013年12月、福岡市東区、松本敏之撮影

――新型コロナは無症状の感染者も多いです。

 敵が見えにくく、区分けができない状況は「人を見たらコロナと思え」のように、ウイルスに対する不潔恐怖が強化され、疑心暗鬼やパラノイア(被害妄想)のようなものを生みやすい。一方で、恐怖と加害不安に基づいて、「無症状の感染者のつもりで行動しなさい」という自粛と自責の方向付けが有効に機能したのでしょう。

――とすると、政策が必ずしも有効だったという訳ではないんですね。

 政策はあまり関係ないと思います。でも、海外からの入国制限の遅れなど政府の後手後手の対応や、PCR検査の抑制など「科学的思考」の欠如が、神話的思考から見ると、結果的に良かった面はあると思います。

――と、いいますと?

 不潔恐怖に象徴される神話的思考はひとたび暴走すると、差別や排除に結びつきやすい。「自粛警察」のような過剰な正義感に基づいた他者への攻撃、医療関係者に対する嫌がらせや差別などが象徴的な例でしょう。普段は「まじめでいい人」といわれる多くの日本人の心の中には、自粛警察のようなものがいて、私権や自由を脅かす可能性を抱えているわけです。

 初期の混乱した状況でPCR検…

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