拡大する写真・図版5月の季節の生菓子。クローバーに乗ったテントウムシや、花にとまるミツバチ、チョウを生八ッ橋で表現した=2020年4月27日、京都市左京区聖護院川原町、高井里佳子撮影

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 鴨川の東側、京都市左京区の一角。広くはない路地に面して、1689(元禄2)年創業の聖護院八ッ橋総本店の本店がある。

 米粉と砂糖を練り、ニッキ(シナモン)で香りづけた八ッ橋は、京都を代表する和菓子。江戸時代の音楽家、八橋検校(けんぎょう)をしのび、琴を模して作られた焼き菓子が始まりとされる。

 近所の女性(80)は「和菓子と言ったら八ッ橋。ほどよい甘さがおいしくて、もう50年は買い続けています」と話す。

 店構えは目立たないが、「聖護院」はここを含めて市内に直営店が五つ。東京や大阪の百貨店でも取り扱いがある。年商は20億円を下らず、京都に十数あるライバル社のなかでも最大手の一つだ。

 1905年に七条停車場(現・京都駅)で立ち売りを始めると、京都土産として人気に一気に火が付き、修学旅行生などの土産の定番になってきた。

 だが、販売のピークは大阪万博があった1970年ごろ。お土産スイーツの選択肢が増えた今、若者を中心にした「ばなれ」に同店は危機感も抱く。

 「食べるきっかけがあれば、おいしさは伝わる」

 そんな思いで、専務の鈴鹿可奈子さん(37)が9年前から育てているのが、「nikiniki(ニキニキ)」ブランドで出しているカラフル路線の品々だ。

拡大する写真・図版nikinikiを立ち上げた鈴鹿可奈子さん。手に持つのは季節の生菓子=2020年4月27日、京都市左京区聖護院川原町、高井里佳子撮影

 八ッ橋と言えば、焼いた焦げ茶か、生のベージュ色。どれも地味だ。一方、ニキニキは、食用の色粉で彩られた4種類ほどの生菓子を月替わりで出すなど、「映(ば)え」を意識。5月は花にとまる黄色のチョウやミツバチ、クローバーをかたどった。手作業のため、1種類につき1日の販売数は各50個ほどだという。

 洋風の外観の専門店を、若者でにぎわう四条通に出店。看板商品は、正方形の生八ッ橋で果物のコンフィやカスタード、アイスクリームを包んで食べる「カレ・ド・カネール」。フランス語で「シナモンの正方形」という意味だ。

 大学時代に友人から「八ッ橋を自分で買ったことはない」と言われ、衝撃を受けたという鈴鹿さん。八ッ橋の可能性を示して若い世代の認知度を高めるため、「季節を感じられるものにしたかった」と話す。

 実は1986年から93年にかけて、鈴鹿さんの母が三条河原町にカフェ「サロンド・テ カネール」という喫茶店を開いていた。八ッ橋をデザートとして展開しようと、フルーツと合わせたりケーキやミルフィーユ状にしたりして販売し、斬新さが注目された。

 そうした経緯もあり、鈴鹿さんの父、且久社長が「従来と違うことをやってみないか」と新事業への挑戦を提案。鈴鹿さんは母の店をヒントにした。

 若い世代だけでなく、年配の女性からも「かわいいし、昔から知っている八ッ橋の味で安心できる」と好評だ。薄く焼いた八ッ橋にあめやキャラメルをかけた「ヌガティン」や、八ッ橋を型抜きしたクッキーのような「オンブル」、砕いた八ッ橋とドライフルーツを合わせた「ヤツハシ・シリアル」など、次々と新商品も打ち出す。2012年にはJR京都駅構内に2号店も開いた。

 ただ、どれだけ新商品を出しても、八ッ橋そのものの材料は同じ。自慢の味を変えるわけにはいかない。

 鈴鹿さんは言う。

 「(会社を)100年、200年続かせようと思ったら、全く同じことをしていたらだめ。続けるためにこそ新しいことをする。元の味がおいしいという安心感があるから、挑戦していけるんです」

     ◇

 老舗と両輪をなして八ッ橋人気を引っ張ってきたのは、アイデアが売りの後発組。代表格が1965年設立の美十(びじゅう)(南区)だ。

拡大する写真・図版抹茶の生八ッ橋で、抹茶スポンジ生地と黒豆あん入り抹茶チョコレートをサンドした「京町家ケーキ」=美十提供

 かりかりの八ッ橋を砕いて、チョコレートで固めた「八ッ橋クランチ」。生八ッ橋に濃厚な抹茶ソースをつけて食べる「生八つ橋フォンデュ」。スポンジ生地と生八ッ橋を組み合わせた「京町家ケーキ」に至っては、八ッ橋の名前すら外したが、年配客に人気だ。

 「後発組だからこそ、固定観念にしばられず、商品を作ることができる」

 新商品作りを担うマーケティング部の島本崇弘チーフ(40)はそう話す。

拡大する写真・図版商品の開発経緯を話す美十マーケティング部の島本崇弘さん=2020年4月23日、京都市南区西九条高畠町、高井里佳子撮影

 いまや各社の定番である、粒あんを包んで三角形に折った生八ッ橋も、同社が66年に発売した「おたべ」が先駆けだという。大津市にあったレジャー施設に新規出店する際の目玉として売りだしたところ、大当たりした。

 最近の気がかりは、修学旅行生の八ッ橋との「ファーストコンタクト」が減っていることだ。そもそも、お土産で選ばれなくなっているという。

 美十はすでに、クッキーやバウムクーヘン、食パンなど、八ッ橋以外の商品にも注力。八ッ橋は主軸には変わりないが、近年の売り上げは全体の2~3割にとどまっている。

 「八ッ橋を残すには、伝統にこだわり過ぎないこと。時代に合ったものに挑戦していく」と島本さん。今も、女性や若い世代に受ける新作を開発中だ。(高井里佳子)

拡大する写真・図版抹茶味の生八ッ橋に、濃厚な抹茶ソースをつけて食べる「生八つ橋フォンデュ」=美十提供