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 新型コロナウイルスをめぐる緊急事態宣言の解除を受け、神奈川県は25日、県内の遊興施設などに出していた休業要請を27日午前0時に解除すると正式に決めた。約1カ月半ぶりに休業要請はなくなるが、感染の第2波への懸念が消えないなか、人々の日常生活や経済活動がもとに戻るかどうかは見通せない。

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 緊急事態宣言の解除決定に伴う県の新たな対応方針は、25日夜に県庁で開かれた対策本部会議で決まった。27日午前0時から、事業者への休業要請や県民への外出自粛要請を解除するほか、飲食店への短縮営業要請、イベント自粛の要請を一斉に緩和する。おおむね3週間後、感染の状況などをみて、全面解除に踏み切るかどうかを決める。

 休業要請は4月11日から、パチンコ店やカラオケボックスなどを含む6業種を対象に出されてきた。事業者が適切な感染防止対策をとることを前提に解除するが、当面は午後10時までの短縮営業を要請する。

 飲食店への短縮営業の要請も、「午後8時まで」だった営業時間を「午後10時まで」に延ばし、酒類の提供を閉店までできるようにする。6業種を含む短縮営業の要請は、おおむね3週間後に解除するかどうかを判断する。

 県民への外出自粛の要請も27日に解除する。ただし、県はおおむね3週間は、接待を伴う飲食店などクラスター(感染者集団)の発生歴があるような場所の利用や、帰省や旅行など県境を越えた移動を控えるよう求めている。

 同日からは、小規模なイベント(屋内100人以下、屋外200人以下)は自粛要請が解除される。中規模以上のイベントの可否は、おおむね3週間後に判断することにした。

 そのほか、6月9日には県立の社会教育施設のうち、県立図書館や川崎図書館、金沢文庫、近代美術館、歴史博物館を再開館させると決めた。

 会議後、黒岩祐治知事は報道陣に「宣言が解除されてもウイルスがいなくなったわけではない。徹底した感染防止対策に取り組む中で、そろりそろりと経済を回し、新たな日常を作っていきたい」と述べた。(茂木克信)

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 神奈川県内の観光地は営業再開に向けて動き始めている。

 「長かったですね」

 江の島振興連絡協議会の会長、湯浅裕一さん(69)は緊急事態宣言が解除された25日、そう語った。江の島(藤沢市)を含む湘南地区は、「来ないで」と黒岩祐治知事や首長らが県内外に呼びかける状況になり、湯浅さんが営む和菓子店も休業を余儀なくされた。

 宣言解除を受けて湯浅さんは「江の島は近くの水族館などの施設もオープンしていかないといけない。島内のお店だけでなく全体で受け入れ態勢をつくるのが大事で、できれば週末に整うようにしたい。店も和菓子の仕込みを始めたい」。

 ただ、心配もある。「商売を早くやりたいという半面、(感染拡大防止を考えると)まだ早いのかなという思いもあります。だけど経済がこれだけ疲弊しちゃったから……」。消毒液を置くなどの対策をして観光客を迎える構えだ。

 箱根旧街道で江戸時代から旅人が休憩する「甘酒茶屋」。24日、茶屋の歴史で初めてのドライブスルーを設置した。甘酒のほか和菓子、そば、日帰り温泉入浴券も販売。2日間で車約100台が利用し、石畳の街道を歩く人も十数人が立ち寄った。13代目店主の山本聡さん(52)は「主に常連の方たちが『やっと飲めた』と喜び、疲れを癒やしています」。6月4日まではドライブスルー限定で営業するという。

 「豆腐かつ煮」で知られる箱根・強羅の店「田むら銀かつ亭」も24日に営業を再開した。感染リスクを下げるため、店内の約40席を20席程度に減らした。行列のリスクも避けるため、スマホに空席を連絡するサービスも始め、番が来るまで散歩などを楽しめる。

 箱根登山鉄道強羅駅周辺では24日、小田原箱根商工会議所青年部の有志十数人が、観光客を迎える環境を整えようと清掃や草むしりをした。その一人、中嶋順さん(49)は「箱根湯本駅や仙石原の案内所もきれいにし、準備ができました。観光を徐々に回復させたい」。同鉄道は7月の運行再開を予定している。

 例年ならこの時期、修学旅行生が行き交う鎌倉・小町通り。おもちゃ屋「ちょっぺー」は緊急事態宣言で一度は店を休んだが、ストレスをためた子どもとその相手に疲れたおじいちゃん、おばあちゃんのために5月15日から時短で営業を再開したが、客は数人という日々が続く。

 「観光客が以前の水準に戻るには1年以上はかかるでしょう。今後の経営は非常に厳しい」と店主の今雅史さん(71)は話す。ただ、7月から小町通り商店会の会長に就く今さんは「厳しい現実に対処した実績は力になる」と前向きだ。「以前は(混雑のあまり)『観光公害』とも言われましたが、大勢の鎌倉来訪は本当にありがたいことだったと今はわかります。古くからの会員の意識も変わり、新しい人の意見を取り込むチャンスです」

 鎌倉駅近くでビストロを営む黒木伸太郎さん(43)は、外出自粛期間中に始めた料理のテイクアウトを、6月2日に店内飲食を再開した後も続けるつもりだ。「これなら家でも楽しめる」と地元の年配客が何度も利用してくれた。「地元に大切にされる店でありたいと思いました。(テイクアウトに挑戦して)席数に制約されない新しい可能性も感じました」

 帰宅は深夜が当たり前だったのに、午後8時には家に着き、子どもたちに「パパ、お疲れ様」と言ってもらえる初めての日々。「立ち止まり、生き方を問い直す機会にもなりました」(秦忠弘、村野英一、織井優佳)

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 県は、休業を要請している「遊興施設」など6業種について、27日午前0時に一律解除する方針だ。各業界は、手探りの中で再開の時を迎えることになる。

 「宣言解除だからって素直に喜べない」

 JR関内駅近くにある横浜市中区のスペインバル「バール・エスパニョール」の奈輪憲昭マネジャー(45)は不安を口にした。

 現在、夕食時間帯の客は日に1、2組ほど。県は休業要請の解除と同時に、飲食店への短縮営業の要請も緩和し、閉店時刻を「午後8時まで」から「午後10時まで」にする方針。だが同店では、客足が戻るか分からないこともあり、実際に午後10時まで営業するかはまだ決めていないという。「客が戻りすぎてもクラスター(感染者集団)が出ないか心配になるし、複雑な気持ちです」

 4月8日から休館中の同区の映画館「ジャック&ベティ」は、6月1日の再開に向け準備を始めた。当面は定員の半数ほどのチケットしか販売せず、間隔を空けて座ってもらった上で換気や消毒を徹底する。梶原俊幸支配人(43)は「(宣言が解除されて)よかったが、遠方からの来館は難しいと思う。徐々に取り戻したい」。

 横浜市港南区にあるカラオケ店は、県の要請前から休業していたが、27日朝から再開を予定している。客から寄せられた再開予定の問い合わせに答えられない状況だったという。店員は「カラオケで大声を出すこともあるので、感染対策は慎重にやっていきたい」。

 オンライン授業を続ける関東学院大学。現段階で、対面授業再開の見通しは立っていないという。担当者は「(新型コロナウイルスの)状況にあわせ、7月下旬から始まる前期試験に間に合うよう、段階的に対面での授業を始めていきたい」と話した。

 早期の営業再開に慎重な事業者も。JR川崎駅近くの「ラ チッタデッラ」は映画館や飲食店など51店舗を持つ複合商業施設。12スクリーンを持つ映画館「チネチッタ」は、再開の準備は整ったが、まだ日にちは決定できないという。

 「ラ チッタデッラ」を運営する「チッタエンタテイメント」の土岐一利事業企画本部長は「東京より(映画館などに対する休業要請の解除のタイミングが)早いので正直戸惑っている。急に神奈川で開館していいといわれても大丈夫なのかという懸念が消えない」(林瞬、林知聡、斎藤博美)