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 ネット上で他人を匿名で中傷する悪質な投稿が問題になっているため、情報発信者を特定しやすくする制度づくりが政府・与党で加速している。中傷による心身への被害や名誉毀損(きそん)などをなくす狙いがある一方、企業や公人が乱用すれば、正当な批判などの表現の自由を脅かしかねない懸念もくすぶる。

 フジテレビの番組「テラスハウス」に出演してSNSでの中傷に悩んでいたとされるプロレスラー木村花さんの死去を受け、高市早苗総務相は26日、「匿名で他人を誹謗(ひぼう)中傷する行為はひきょうで許しがたい」とした上で、発信者情報の開示を定めるプロバイダー責任制限法について「制度改正を含めた対応をスピード感を持ってやっていきたい」と述べ、検討を急がせる考えを示した。

 SNSなどでの中傷はかねて問題になっているが、現状では、時間とお金のかかる裁判で権利侵害が認められないと、発信者情報の開示に応じない事業者が多いことなどが課題になっている。総務省は木村さんが亡くなる前の4月に有識者会議を立ち上げ、今後の発信者情報開示のあり方を議論している。会議では今後、①裁判なしの任意開示を促せないか②開示させる情報を増やせないか③海外事業者にどう対応するか――などを検討した上で、今夏に方向性を示す見込みだ。

 一方、自民党も26日、ネット上の中傷や権利侵害への対策を検討するプロジェクトチームを発足させた。座長の三原じゅん子参院議員は「ネット上は無法地帯になっており(中傷は)一生残る。侮辱罪の可能性もある」などと述べ、法制度の見直しや相談窓口の拡充に意欲を示した。三原氏は「言論の自由を阻害するのではないかという誤解を生まないよう、丁寧に行っていくことは大切だ」とも話した。

 対応を求める声は野党側からも上がっている。立憲民主党の安住淳国会対策委員長は25日、「心ない誹謗中傷で人を傷つけるやり方には何らかのルール化が必要」と述べており、与野党で対応策を協議することで一致している。

 ただ、匿名の情報発信者を特定しやすくすれば、批判を書かれた企業や公人などが乱用する恐れもある。IT分野のルールに詳しい森亮二弁護士は「今の開示ルールでなにが問題なのかを明確にしたうえで、通信の秘密保護と被害救済のバランスを見極め、公共性がある情報発信までためらわれないようにすべきだ」と指摘する。外国事業者が運営するSNSの利用が多い一方、現行ルールの開示にも応じない事業者も多いことから「外国事業者にきちんと効力を持たせることも必要だ」と話す。

 ツイッターやフェイスブック、LINEなどのSNS事業者でつくる団体「ソーシャルメディア利用環境整備機構」は26日、嫌がらせや名誉毀損などの禁止事項を啓発し、必要な措置を徹底するとの緊急声明を発表した。中傷を防ぐ追加策を検討する特別委員会も設置するという。(西村圭史、藤田知也)