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それぞれの最終楽章・がん患者のこころ(4)

がん専門の精神科医 清水研さん

 「がんで亡くなることが分かっているのに、なぜ前向きに生きられるのか」。2003年にがん患者専門の精神科医として働き始めた直後に、私が抱いた大いなる疑問でした。

 20代で口腔(こうくう)がんになった男性は手術後すぐ再発、口の中の腫瘍がどんどん大きくなって、何ものみ込めない状態になりました。再発が分かった時には非常にショックを受け「何も悪いことをしていないのに、なぜこんな目に遭わなければならないのだ」と怒りをあらわにしていたといいます。担当医から「がんが進行してつらいだろうから、話を聞いてあげてほしい」と言われ、カウンセリングをすることになりました。しかし「自分ならこの状況に絶対耐えられないだろう。どんな言葉をかければいいのか」と思い、正直にいえば恐る恐る足を運びました。案に相違して「先生、会いにきてくれてありがとう」と笑顔で迎えてくれましたし、周囲の人にもいつも感謝の気持ちを伝えていました。

 厳しい状況であることを自覚しつつ、その瞬間、瞬間を前向きに生き、笑顔を絶やさず、周囲に感謝して半年後に逝きました。

 彼の生き方に感動すると同時に「なぜあんなに前向きになれるのか」と不思議な気持ちでした。ただ、多くの患者さんの姿を見ていて「健康はいつ損なわれるか分からない。だから今日を無事に過ごせることは当たり前ではない。ありがたい」と感謝の念が湧いてきました。仕事の後、同僚と飲みにいって「いつか、このおいしいビールののど越しが楽しめなくなる日が来る。そう思うと本当に今日に感謝したい」と真顔で話し、「清水、どうした?」と怪訝(けげん)な顔をされることもありました。

 日常的に患者さんの死と向き合うなかで、いや応なしに「死」をどう捉えるか、見据えざるを得ない日々でした。その頃は「死後の世界などない。死んだらすべてが終わる」と考えていました。日々にむなしさを感じていたので「このまま死んでしまったら、僕の人生は何もいいことがなかったで終わってしまうのではないか」と悩んでいました。

 そんな頃、テレビ番組で流れていた「人生は一回限りの旅である」というフレーズが心にグッと入ってきました。「死んだら全てが終わる。そんな人生に、どんな意味が見いだせるのか」と思い詰めていた私には、目から鱗(うろこ)が落ちるような感覚でした。

 「なるほど、一回限りの旅か。…

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