拡大する写真・図版ミナミで活動するボランティア団体「Minamiこども教室」は5月半ば、小学生向け学習会をLINEで再開した。ネット環境が十分でない家庭の子は地域の自治会館に集まった=2020年5月19日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

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 新型コロナウイルスの影響で外国人家庭の生活も苦しさを増している。日本語が不得意な場合、自力で公的支援にたどり着くのも難しいためだ。飲食業に就く外国人が集まる大阪・ミナミでは、苦闘する家族を無償で支える人々の姿があった。

人通り途絶えた繁華街で

拡大する写真・図版緊急事態宣言中、大阪・ミナミにあるサイケさんの店の前の通りも人通りはまばらだった=2020年5月14日午後7時10分、大阪市中央区東心斎橋2丁目、玉置太郎撮影

 スナックやバーが軒を連ねるミナミの東心斎橋(大阪市中央区)。人気(ひとけ)のない地下のフィリピンパブで、サイケ・エルベルトさん(43)はため息をつく。

 「3月に入って、お客さん全然来なくなった。今ほんと厳しい」

拡大する写真・図版閉店中のフィリピンパブのカウンターに立つサイケ・エルベルトさん=2020年5月11日、大阪市中央区東心斎橋2丁目、玉置太郎撮影

 昨秋開いたパブは、大阪府の休業要請を受けて4月半ばから5月末まで休みに。近くで経営する料理店は4月末で廃業し、一時収入がなくなった。2軒の家賃は月70万円。パブ分の39万円は5月以降ものしかかる。

 15年前にマニラから来日。ミナミでウェーターの職に就き、9年前に念願の自分の店を開いた。一緒に働く妻、中学生から1歳の子ども6人と暮らす。「大変だから逃げようったって、子どもの学校どうする。がんばるしかないよ」

公的支援に”つなぐ”サポート

 今月上旬、子どもらが通う支援団体「Minamiこども教室」の金光敏(キム・クァンミン)さん(48)から電話があった。新型コロナの影響で収入が減った世帯への、社会福祉協議会の貸付制度を教えてくれた。日本語の読み書きは不得手なサイケさん。金さんに申請書の記入を手伝ってもらい、上限の60万円を借りた。無利子で償還期間は10年。「サポートがなかったら、どうなってたか」と感謝する。

拡大する写真・図版社会福祉協議会の事務所に同行し、サイケさん夫婦に貸付制度の説明をする金光敏さん(中央)=2020年5月8日、大阪市中央区、玉置太郎撮影

 こども教室は、ミナミで働く人々が多く住む島之内地区で活動する。地区住民約6千人の33%が外国籍だ。毎週火曜の夜、フィリピンや中国など外国にルーツをもつ子ども約30人が集まり、ボランティアが学校の宿題や日本語を教える。

 金さんは在日コリアン3世。「将来に希望を持てない子どもらの姿が、自分の中学時代と重なって」と教室の実行委員長を務める。

拡大する写真・図版金光敏さん(右)の同級生の美容師(左)が自治会館を訪れ、Minamiこども教室の女子中学生(中央)の髪を無償で切った=2020年5月15日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

 4月以降、11家族に社協の貸付制度を伝え、申請を手伝った。親たちはミナミの飲食店で働き、母子家庭も多い。「今までになく厳しい状況。日本語が十分でない親にとって、公的支援にたどり着くのは大変やから」。5月末には、政府が全国すべての人に一律10万円を配る「特別定額給付金」の申請と生活相談の会を開き、2日間で約300人が訪れた。

拡大する写真・図版Minamiこども教室などが自治会館で開いた、特別定額給付金の申請会に訪れた親子(右)=2020年5月30日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

 念頭にあるのは8年前、島之内に住むフィリピン人母子が無理心中を図った事件だ。母親は仕事と育児の両立に悩んでいたといい、翌年に教室が立ち上がるきっかけとなった。

休校中の学び オンラインで

 新型コロナの影響で、こども教室も2月末から休みに。塾に通う余裕のある家庭は少なく、親の多くは日本語の読み書きが得意ではない。元教員のスタッフらは中高生向けに週3回、テレビ会議システムを使った学習会を続ける。

拡大する写真・図版オンライン会議システムを使って、Minamiこども教室のスタッフから数学を教わる高3の少女=2020年5月13日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

 タイにルーツをもつ高校3年の少女(17)は毎回、スマートフォンで参加する。昨年5月から父親が入院し、生活は楽ではない。受験が迫り、不安も募る。

 「決まった時間に、お世話になってきたスタッフや友達と一緒に勉強できるのは心強い」

こども食堂 休止でも宅配

 この少女やサイケさん家族を、「食」で支える人々もいる。

拡大する写真・図版地域の寺院から提供のあった弁当を各家庭分に仕分けする仲憲一さん(中央)ら「しま☆ルーム」のボランティア=2020年5月13日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

 島之内で活動する子ども食堂「しま☆ルーム」は2月末から週3~4日、約25世帯に計70食の弁当を無償で届けている。休業要請が長引き、配食の要望は倍増した。

拡大する写真・図版サイケさん(右)の自宅に弁当を届ける「しま☆ルーム」のボランティア(左)=2020年5月13日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

 スタッフの仲憲一さん(59)は東心斎橋でバーを経営。SNSで活動を知った顔見知りの飲食店主らから、弁当の提供もあった。

 子どもに弁当を手渡し、玄関先で言葉を交わす。「これがうれしいんや」。ずっと寝間着だったり、室内が荒れていたり、生活の変化が気になる子もいる。

 「ミナミで飯を食うもんとして、この街で育つ子らに何かできたら」。食堂の再開を待ちわびる。(玉置太郎)

拡大する写真・図版子ども食堂「しま☆ルーム」のスタッフ、仲憲一さん=2020年5月13日、大阪市中央区東心斎橋1丁目、玉置太郎撮影

外国人住民 相談相次ぐ

 日本に住む外国人は293万人(昨年末)。この3年間で55万人増え、人口の2・3%を占めている。

 新型コロナウイルスの影響が広がり、行政機関などには外国人からの相談が急増している。約9千人のブラジル人が住む愛知県豊橋市の相談窓口には、4月に308件の相談があった。3月の4倍だ。全国すべての人に一律10万円を配る「特別定額給付金」の手続きがわからない人や、製造業で雇い止めとなった人たちからの相談が多いという。

 六つの言語で対応する大阪国際交流センター(大阪市)にも2月以降、支援制度などに関する相談が約750件寄せられた。

拡大する写真・図版Minamiこども教室の特別定額給付金申請会で、生活相談に加わる高谷幸・大阪大准教授(左)=2020年5月30日、大阪市中央区島之内2丁目、玉置太郎撮影

 外国人支援NPOの理事も務める高谷幸・大阪大准教授(移民研究)は「雇用が不安定な人が多い上、親族や友人ら頼る先も少なく、生活により強い影響が出ている」と指摘。「支援制度の複雑な手続きは日本語が理解できる人でも難しく、申請の簡素化や同行支援も必要」とし、国や自治体による支援の拡充を訴える。