コロナも失業も怖い ヨーロッパ観光地、損失覚悟の再開

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モンサンミッシェル=疋田多揚 ローマ=河原田慎一 ウィーン=吉武祐 青田秀樹
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 新型コロナウイルスによる行動規制が緩和された欧州の国々で、観光客の受け入れがそろりと始まった。夏のバカンスシーズンを前に、経済の屋台骨の観光業の再開が待ち望まれているためだ。コロナ禍は観光の姿も変えそうだ。(モンサンミッシェル=疋田多揚、ローマ=河原田慎一、ウィーン=吉武祐)

 日本を含め世界中から毎年250万人が訪れるフランス北西部の世界遺産、モンサンミッシェル。5月11日、外出禁止令が解け、人口30人弱の小島に約2カ月ぶりに観光客が戻った。

 島へのシャトルバスも再開し、いくつかの土産物店がシャッターを上げた。5月20日、60キロほど離れた街から恋人と訪れたアナベル・ロマンさん(51)は「20年以上来たことがなかった。いつも人であふれていたから。今日は快適だ」と語った。昨年、周囲1キロ弱の島に多いときには1日に2万3千人の観光客がひしめいたが、外出禁止の解除後は1日1500人ほどだ。

エッフェル塔やルーブル美術館 密集どうする

 土産物店を再開したエマニュエル・コナンさん(50)は「ものが売れるわけがない」とぼやく。外出禁止令が解けたといっても、移動できるのは原則自宅から100キロ以内。島に来られるのは「地元民」だけだからだ。「一度来たことのある人が土産物を買うわけがない」。かつて1日1千ユーロ(約11万9千円)ほどあった売り上げは10分の1しかない。

 オムレツで有名なレストラン「ラメール・プラール」を経営するエリック・ベロンさんも「再開は損失覚悟になる」と頭を抱える。200席ある店内は、客同士がじゅうぶん離れて座るなら、「45席が限界」。島の観光客の半数は外国人で、どれほど人が戻るかもわからない。再開はまだしていない。「(再開は)高度計も視界もないなか、壊れたエンジンで飛行機を操縦するようなものだ」。島の一番の名所の修道院も閉まったままだ。

 密集対策も課題で、陸と結ぶ橋は左側通行と明示し、島内も一方通行にした。それでも、参道は狭いところで1~2メートルほどで、きちんと距離を取り合うのは難しい。島の観光局のエルベ・ビエルジョンさん(52)によると、入島人数の制限も検討したが断念した。島は自治体でもあり、公道である路地へのアクセスを妨げる法的根拠が見つからなかったという。フランスは2018年、世界最多の8900万人以上の外国人観光客を集めたが、閉鎖中のエッフェル塔やルーブル美術館で、どう密集を避けるかも課題になる。

「外国人来ないと商売にならない」

 年間6千万人以上の外国人客が訪れるイタリアは、5月18日から段階的に観光を再開。レストランの店内飲食も解禁した。5月26日には古代遺跡のポンペイが受け入れを始めたほか、ローマのコロッセオも6月1日に再開予定だ。

 ただ、現在は国内に住む人の州内移動だけが認められており、ローマ市内は地元の人たちが散策する程度。ふだんなら観光客の行列ができる「真実の口」も人影はない。ナボーナ広場で革製品の店を営むアントニオ・バッカーリさん(52)は「2月までは日本からも毎日のように観光客が来ていたが、今は客自体がゼロだ」と嘆く。近くのレストランの店員も「休業補償をもらって生活している市民が、外食に来るはずがない。外国人客が来ないと商売にならない」と嘆く。同国の観光業団体は、観光業の損害額は今年3~5月だけで約74億ユーロ(約8800億円)に上ると推定している。主要紙レプブリカは、今年の同国の訪問客数は、国内旅行を含めても昨年より約40%減るとの予測を報じた。

「安全であることが宣伝」

 欧州クラシック音楽の祭典「ザルツブルク音楽祭」が8月に開かれることが決まったオーストリア。欧州でいち早く外出制限を解除し、5月15日には飲食店が営業を再開した。

 「音楽の都」ウィーン中心部にある1873年創業の「カフェ・ラントマン」経営者のベルント・クエルフェルトさんは、自国の感染状況が欧州内では比較的落ち着いていることに希望を持つ。同国の感染者数は1万6千人ほどだ。「感染者数が少なくて安全であれば、それが(観光の)宣伝になる」という。だからこそ、感染者数の推移に神経をとがらせる。「どの国でも2度目の都市封鎖に耐えるお金はないと思う」

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