拡大する写真・図版佐々木孝さんと妻の美子さん(家族提供)

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 20世紀の大衆社会を鋭く洞察した、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットの名著『大衆の反逆』(1930年)の新訳が4月、岩波文庫から刊行された。すでに3刷が決まり、1万部を超えた。「古典的な文庫としては異例の売れ行き」という。訳したのは、東京電力福島第一原発事故の被災地で暮らしていたスペイン思想研究家の佐々木孝さん。十数年かけて、2018年末に急逝する直前に完成した。「大衆を批判するエリート」という従来のイメージとは違ったオルテガ像の提示を目指していた。

 佐々木さんは上智大でスペイン語と哲学を学び、オルテガやウナムーノの研究をしながら、清泉女子大教授などとして30年余り教壇に立った。その後、故郷の福島県南相馬市に戻った。

 11年の東日本大震災では、福島第一原発から25キロの自宅から認知症の妻を連れて避難できないと判断。「モノディアロゴス(独対話)」と題したブログで発信を続け、国内外の取材者や芸術家を迎え入れた。記者(浜田)も、その人柄に魅せられ、何度も南相馬のお宅にお邪魔した。ブログをまとめた著書『原発禍を生きる』(論創社)は中国語、韓国語、スペイン語にも翻訳された。

 『大衆の反逆』の翻訳を本格的に始めたのは06年、翌年にいったん訳し終えたが、震災による中断をはさんで手直しを続けた。18年12月、肺がん治療のため入院する直前、完成した翻訳の原稿を家族に託した。5日後、79歳で亡くなった。

拡大する写真・図版佐々木孝さん手製による遺稿本。下はオルテガの原著

 遺稿は、佐々木さんの著書の愛…

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