新型コロナウイルスの影響で、世界の航空業界の苦境が続いている。各国が観光や経済活動を徐々に再開し始めているが、旅客数が戻るには時間がかかりそうだ。航空機自体の需要も減り、愛知県などに集積する日本の航空部品メーカーも打撃を受けている。
独ルフトハンザ航空は今月15日から航空便を週約500便から約900便に増やした。声明で「観光とビジネス客のアクセスを増やす」と意気込んだ。
英航空情報会社OAGによると、欧米などで人の移動制限の解除が進むなか、6月に入り世界で約60の航空会社が運航を再開した。だが、全体の便数は前年同期に比べて63%減の状態。欧州主要国では軒並み80%を超える減便が続く。国際航空運送協会(IATA)は、2020年の世界の航空会社の純損益を計843億ドル(約9兆円)の赤字と予想。国際線需要が2019年水準まで回復するのは24年になると予想する。
各社は生き残りへ必死だ。ルフトハンザは5月末にドイツ政府が株の20%を握る代わりに、総額90億ユーロ(約1兆900億円)の公的支援を受ける救援策に合意した。手元資金が1時間に100万ユーロ(約1億2千万円)減る状態だった。
ただ、同社は17日の声明で、来週開く株主総会で承認に必要な票数が得られない恐れがあるとし、否決されれば破産手続きに進まざるをえないとしている。
難局を政府の借り入れ保証や出資でしのぐケースは、フランスやイタリアでも起きている。
米航空大手には、政府が給与補助など計500億ドル(約5・4兆円)を支援する。だが、長期的なビジネス縮小は避けられず、相次ぎ大規模な人員削減に追い込まれている。
すでに4万人が無給で休んでいるデルタ航空は、早期退職を募る。アメリカン航空やユナイテッド航空も管理部門の人員を約3割減らす考えだ。各社とも運航を徐々に増やしていくが、4~6月は前年同期比で9割もの減収になる見込み。
国を代表する航空会社にばかり支援が集まる状況には疑問の声もある。欧州の格安航空会社(LCC)大手「ライアンエア」のオライリーCEOは、ライバルのルフトハンザなどを「まるで補助金中毒」と批判し、各国政府に平等な支援を訴える。
一方、豪州やタイでは政府支援を得られなかった航空会社が破綻(はたん)するケースも出てきている。4月には豪州2位のヴァージン・オーストラリアが経営破綻。5月にはタイ国際航空が会社更生法を申請した。
ANAホールディングスは、従業員約4万人規模の一時帰休を実施。政府系金融などから必要な際に借り入れられる枠を増やして資金不足に備えている。(ロンドン=和気真也、ワシントン=江渕崇)
航空会社の不振は、航空機メーカーにも波及した。米ボーイングは5月末、米国内でレイオフ(一時解雇)と希望退職で計1万2千人超を減らすと発表。中型機「787」の生産を徐々に半減させ、大型機「777」も3割減らす。カルフーンCEOは「我々の産業はいずれ復活するが、わずか2カ月前の水準に戻るまで何年もかかるだろう」と述べた。
ボーイングの取引先は約1万7千社。エンジンを手がける米ゼネラル・エレクトリック(GE)も、航空部門の1万3千人削減に追い込まれた。
日本への影響も大きい。
「787」は部品の35%が…