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 「マスクをつけて弁護はできない」。弁護人のこんな一言で、2日に再開された東京地裁の裁判員裁判が2時間超にわたり中断する一幕があった。「遺憾だ」とする裁判所に対し、弁護人は「つけないといけないなら再開は時期尚早だ」と反論。結局、審理は続けられたが、新型コロナウイルスをめぐり、事件とは別の「争点」が持ち上がった形だ。

 緊急事態宣言の解除を受け、東京地裁ではこの日、約3カ月ぶりに裁判員裁判が開かれた。裁判員の間にアクリル板を設け、定期的に換気するなどの感染防止策が取られ、殺人罪に問われた女(55)の初公判があった。弁護人2人を除き、裁判官や裁判員、検察官、被告ら審理に関わる人は全員マスクをつけていた。

 開廷直後、永渕健一裁判長が弁護人に「マスクをして頂けませんか」と要望。弁護人は「感染拡大を防ぐのは大事だが、(被告の)人生を決める重大な裁判。マスクをすることは難しい」と応じなかった。やりとりは2回繰り返されたが弁護人は譲らず、裁判長は対応を相談するとして審理をいったん中断した。

 約2時間後、地裁は「遺憾」を表明したものの、弁護人がマスク不着用でも裁判員は続ける意思を示したとして審理を再開。地裁は弁護人に近い席に座る裁判員の前に新たにアクリル板を設置した。

 弁護人は朝日新聞の取材に「裁判員に直接語りかける時には、マスクをすべきではない。証人や被告に尋問する時は、質問者の表情も重要になる。マスクをつけると、適正な手続きで真実を発見するという裁判のあるべき姿が減じてしまう」と話した。(根津弥)