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 コロナ禍のなか、登校できず、合唱の練習もできないまま。互いの物理的な距離は離れていても、自宅から仲間のことを思いながら歌った声がひとつに重なり、「リモート合唱」として響いた。

 浜田市黒川町の県立浜田高校(熊谷修山〈おさま〉校長、全日制580人)。合唱部顧問の勝部俊一郎教諭(44)のパソコンに、部員らがそれぞれ歌声を披露する場面が同時に映し出された。自宅の室内、あるいは田んぼの見える屋外で。楽譜で隠れて顔がよく見えない子もいた。

 3月から、放課後に数時間ある練習ができない状態が続いた。春休みに集まる機会があった時、勝部さんは「家から歌ってみないか」と「リモート合唱」を部員に呼びかけた。歌いたい気持ちは強いのに、コンクールなどが中止されるかも、との不安な気持ちがうかがえたためだ。

 35人いる部員の自宅は、浜田市内や江津市などばらばらだ。呼びかけた歌は、8月に県大会が開催予定だった第87回NHK全国学校音楽コンクールの課題曲「彼方(かなた)のノック」。声をそろえた形での練習がほぼできていない歌だったが、大型連休中、20人の部員が自宅から呼びかけに応じた。

 楽譜を見ながら歌う動画をスマホで録画し、勝部さんにメールで送った。自然豊かな浜田市・弥栄(やさか)地区に住む男子部員の動画は、かまびすしいほどの鳥の鳴き声にあふれていた。

 勝部さんはパソコンで、20人が一斉に合唱しているように編集。5月半ば、画面上に「開かない『とびら』はない」の言葉が現れて終わる約5分の動画が完成し、ユーチューブで関係者限定で視聴できるようになった。「3年生が22人いるので、今年はコンクールの上位を狙っていた」という部長の3年、大屋涼香(すずか)さん(17)は「寂しい思いをしていたけど、リモートで部員の声が聞こえてうれしかった。みんなで歌った時のようにハモれていた」。副部長の3年、松田華音(かのん)さん(17)も「本来だったら、コンクールに向けてバリバリ練習していないといけない時期だったけど、(動画は)思っていたよりもよくて、すごくうれしかった」と喜ぶ。

 3週間がかりでパソコンでの編集作業に取り組んだ勝部さんは「疲れました。でも、部員たちの気持ちに寄り添うことができ、いいものができました」。

 その後、Nコンのほか、秋の第73回全日本合唱コンクール(全日本合唱連盟、朝日新聞社主催)の中止も決まった。ようやく6月から、登校や部活動が本格的に再開され、浜田高校では7月19日、吹奏楽部や演劇部と一緒に成果を披露する場が、校内で無観客で開かれる予定だ。そこで合唱部員は、浜田高校のために作曲された「冬の雨」を歌う。

 合唱部は男子の数が5人と少なく、こうした男女比に適した合唱曲がないのが悩みだった。そこで勝部さんが昨年12月、知り合いを通じて紹介された土田豊貴(とよたか)さん(39)=埼玉県富士見市=に浜田高校向けの作曲を依頼。その後、土田さんが作曲した「彼方のノック」がNコン課題曲になるという偶然があった。

 19世紀のイギリスの詩人が書いた「冬の雨」の詞は、冬の雨があればこそ命は育まれるとうたう。土田さんは「ようやく部員たちは歌える喜びを感じていると思います。コンクールが相次ぎなくなり、穴埋めにはならないかもしれないが、僕の歌が一助になればと思います」と話している。(小西孝司)