[PR]

 新型コロナウイルスへの対応は、これまで多額の赤字を出してきた公立病院の改革論議にも影響を及ぼしている。感染者の減少を受け、医療機関が確保している病床の一部を一般の患者用に戻す検討も進むが、川崎市は「最後まで役割を担うのは市立病院」(病院局)として、当面はコロナ患者用に現在確保している病床数をできるだけ維持し、再び感染が拡大する「第2波」の際に速やかに対応できるようにしたい考えだ。

 これまでにダイヤモンド・プリンセス号の乗船者をはじめ、中等症を中心に患者のべ36人を、40床ある結核患者用の病棟で受け入れている川崎市立井田病院(中原区)。4月の患者数は入院、外来とも前年に比べ20%以上減少した。曜日の関係もあるが、5月の減少幅は、速報値で前年比4割近くに拡大している。コロナ患者を受けいれているため、その他の患者用の病床数が減ったり、一般の患者が感染を恐れて受診を控えたりしたことが影響している。

 やはりコロナの患者を受け入れている市立川崎、市立多摩の2病院も同様の落ち込みを見せる。

 今後、コロナ病床を維持すれば、「通常診療の逼迫(ひっぱく)を招きかねない」(病院局経営企画室)といい、2015年に全面開業した新棟の設備負担などで185億円の累積欠損(2018年度決算)を抱える井田病院の経営がさらに悪化するのは避けられない。

     ◇

 井田病院はコロナの感染拡大が起きる前から、公立病院改革の対象とされたことで注目されていた。

 国は、団塊の世代が75歳以上になる25年度に向けて、病気が発症した直後の「急性期」病床を減らし、高齢の患者などが自宅に戻るためのリハビリなどを行う「回復期」病床への転換を促す「地域医療構想」を進める。

 病床の削減・転換が思うように進まないことから、厚生労働省は昨年9月、高度な医療の診療実績が少なかったり、機能を代替できる民間病院が近くにあったりして再編・統合が必要な公立・公的病院を名指しした。

 そのなかに、川崎市内の医療機関では井田病院も入っていた。地域がん診療連携拠点病院として緩和ケアにも対応する井田病院だが、急性期の心血管疾患や脳卒中、小児などで「診療実績が少ない」と判断されたのだ。

 「今回の事態を踏まえると、見直せという指示はあり得ないと思っている」

 5月半ば、川崎市議会の健康福祉委員会。議員からの質問に病院局長はこう答弁した。コロナへの対応で公立病院が存在意義を発揮するなか、その対応力を奪う方向へと働く再編・統合などもってのほか――。そんな思いがうかがえる答弁だった。

 だからといって、改革を迫る圧力が雲散霧消したわけではない。加藤勝信厚労相は4月の国会答弁で「地域医療構想を進めていく必要性は何にも変わっていない」と答弁している。

 川崎市はコロナが市立病院などにもたらした収支の悪化について「国に補償を求めていく」(福田紀彦市長)としているが、どこまで埋め合わせられるかは不透明だ。

 ニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員は「地域医療構想をめぐる議論は、今回のコロナのような大規模感染症に対する医療提供態勢の確保という視点が欠落している」と指摘したうえで、「今後は、大規模感染症への備えとして病床や機器、人材をどう確保するかという視点が不可欠になってくる。病床の稼働率などにも一定の余裕を持たせ、その分のコストをどうまかなっていくか。そうした議論を自治体側から提起していくことも大事だ」と指摘する。(鈴木淑子)