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 黒毛和牛の流通価格が下落し、畜産農家の経営を直撃している。新型コロナウイルスの影響による外食控えや、訪日する外国人が途絶えたことで需要が激減したためだ。長引けば県の畜産業が先細りする恐れもあり、関係者は「県産和牛を食べてほしい」と訴えている。

 広島市中央卸売市場食肉市場では2月以降、枝肉(頭部や内臓を除いた状態)の価格が急落。1月に1キロ当たり2461円だったA4ランク(去勢)の枝肉が、4月には1990円になった=グラフ。前年同月比で約23%の落ち込みだ。

 県畜産課や「神石牛」で知られる神石高原町によると、和牛の畜産農家は、子牛を生後7~10カ月まで育てて競りに出す繁殖農家と、買い付けた子牛を20カ月ほど育てて出荷する肥育農家に分けられる。両方手がける農家もある。

 肥育農家は子牛を70万~80万円ほどで購入。えさ代など計30万~40万円かけて肥育する。最近は平均的な大きさ(枝肉重量で約500キロ)で出荷しても100万円に届かず、「完全な赤字。この状況が長引くと肥育農家が廃業に追い込まれかねない」(神石高原町)という。

 県内で唯一、子牛の競りをしているJA全農ひろしま三次家畜市場(三次市)では、1月から4月にかけて子牛の値が約24%も下落した。「収入の減った肥育農家が買い付けを控えたり、安く仕入れようとしたりせざるをえないため、値が下がる。その結果、繁殖農家の収入も減っている」(同市場)という。

 この窮状に対し、国は新型コロナの緊急対策として、和牛を学校給食で使う際の費用負担を決定。県はこれを活用し、給食に県産和牛を出す場合、年3回まで食材費を負担する。市町レベルでも支援が検討されており、神石高原町は1農家あたり50万円を上限に、肥育牛を1頭出荷するごとに3万円の奨励金を独自に支給する方針だ。

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 神石高原町の山あいに、合同会社「小川牧場」の牛舎はある。代表の小川亀尚(かめひさ)さん(72)が、妻玲子さん(68)、長男夫婦とともに家族経営で神石牛を肥育する。繁殖をしていた先代が肥育を始めて58年。獣医師でもある亀尚さんが役場を辞めて専業農家になった18年前は60頭、いまは105頭を育てている。

 子牛を1頭70万円台で仕入れ、18カ月かけて肥育する。朝夕の餌、施設維持や衛生管理などに約40万円かかる。いま売ると「採算割れで、働きに見合う給与は出ない」。だが、大きく育ちすぎて立てなくなったり、突然死したりするリスクもあって、出荷を先送りにはできないという。

 小川さんは当面、経費を見直すといった経営努力で肥育を続けるつもりだ。「父の代から、オイルショックやBSE(牛海綿状脳症)を乗り越えてきた。神石牛の名がやっと浸透してきたところ。和牛を食べると元気が出ます。地域の人に食べてもらって元気になってもらうのが、畜産業を長く続けていく頼りになる」と話している。(蜷川大介)