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 新型コロナウイルス対策として安倍晋三首相の肝いりで登場し、「アベノマスク」と呼ばれる全世帯配布の布マスク。群馬県内でも届き始める一方、回収して児童らに再配布する動きも自治体に広がる。「全国民にマスクを配れば不安はパッと消えます」という官僚の発案とされるが、その思惑を超えた展開をみせている。

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 「あれでは小さすぎて使えない」。5月初旬、太田市の清水聖義市長は安倍晋三首相のマスク姿をテレビで見て思った。でも、子どもにはサイズがピッタリ。「どうせ捨てちゃうなら」と集め、小中学生約2万人に配ることにした。

 最初は「投げ捨てるような回収箱」を置くつもりでいたが、「260億円もの巨費を投じた事業に対しあまりに非礼」と思い直した。市内で配られる前の1日から市役所の窓口などで受け付けると、「自分は要らないからどうぞ」と高崎市から持参した人や、下仁田町や東京都八王子市から送ってくる人が現れた。

 市長は市が備蓄する大人用の不織布マスクを返礼に送ろうと考えている。ただ、別の心配もある。「もしアベノマスクの寄付が目標の2万枚を大幅に超えたら返礼品が足りなくなる」

 8日現在、少なくとも桐生、伊勢崎、太田、沼田、安中、玉村、大泉の7市町で回収している。

 茂木英子市長が5月27日に寄付を呼びかけた安中市では、8日現在で1164枚(582件)が集まったという。

 5月末から寄付の受け付けを始めた大泉町は、日本語のほか、英語、ポルトガル語で書かれた「政府配布の布マスク寄付箱」を町役場に備え付け、町内に多い外国人にも協力を呼びかける。4月下旬に国から届いた妊婦用マスク180枚の10%の18枚に黒い汚れがあり返品した苦い経験から、アベノマスクが届いたら目視で検品し、小学校に渡す際には再度の検品をお願いする。

 同様に市役所などで5月末から集める桐生市。菅義偉官房長官が1日の会見で「次の流行に備え、ぜひ保有を」と訴えたのに対し、市の担当者は「布製なので時間が経てば黄ばんでしまう。自宅で眠らせておくなら必要なところで活用したい」と話す。

 沼田市は4日から市役所や公民館などに回収箱を置き、寄付を受け付けている。市民から寄付の申し出や回収の問い合わせがあったためだ。横山公一市長は「国が一生懸命やっている政策。マスクを無駄にしたくないから、消極的に集める」とし、「早い段階で国が国民にマスクの作り方を発信した方が良かった」と話した。

 渋川市も10日からアベノマスクのほか、市民手作りのマスクや使い捨てマスクも寄付してもらう。「支え合いマスクボックス」を市役所など7カ所に置いて集め、必要とする子どもやお年寄りに使ってもらう。

 市は、寄付する人の気持ちを尊重しようと、「子どもたちに」「高齢者の方に」「どなたでも」の3種類の回収ボックスを用意する。一つずつ袋に入れた未使用のものを集め、市の職員が確認後、保育所や学校、高齢者施設などに配る。

 高木勉市長は「みんなで支え合い、助け合ってコロナ禍を乗り越えたい。政府のマスクはもうちょっと早くくれば良かったんだが。第2波、第3波に備えて有効に使われればいい」。

 一方、山本一太知事のもとには定例会見のあった4日午後時点ではまだアベノマスクは届いていなかった。「心待ちにしている」という知事は、「マスクは一枚でも多くあった方がいい。全戸配布もひとつの考え方。有効に使わせていただく」と述べた。(長田寿夫、野口拓朗、遠藤雄二、柳沼広幸)

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 一時は店頭から消えていた使い捨ての不織布マスク。ところが再びドラッグストアやスーパーなどで見かける機会が増えてきた。

 群馬県を中心に51店舗を展開するスーパー「フレッセイ」(前橋市)によると、4月中旬ごろから中国製の不織布マスクがまとまった量で入荷し、大型連休明けからさらに入荷量が増えた。種類は限られるものの、5月中旬ごろから点数制限はやめたという。

 50枚入りの商品で、ピークだった4月初めは1枚あたり80円近くにまで高騰したが、いまは半額ほどに下落。中国のマスク工場での製造量が増え、国外への出荷を積極的に行うようになったことが理由として考えられるという。

 アベノマスクの配布で需要が抑制され、価格が下がったなどと菅義偉官房長官が会見で言及したが、県内での配達開始は5月23日。商品部の担当者は「大きな影響はない」と話す。

 またドラッグストア「マルエドラッグ」を55店舗運営する「クスリのマルエ」(前橋市)の担当者もアベノマスク配布は「(品薄解消に)効果はなかった」。むしろ、中国からの輸入量増加に加え、消費者の需要がピークを過ぎ、国内での増産が進んだ効果が徐々に出てきているという。繰り返し使えるマスクでも高機能やスタイリッシュなものは人気だが、アベノマスクのようなタイプはそもそも「ほとんど需要がない」という。(森岡航平)