天野彩、伊沢健司、磯部征紀、片山健志
札幌市で昨年6月、池田詩梨(ことり)ちゃん(当時2)が衰弱死した事件は、児童相談所(児相)など市の組織内の情報共有や、行政と警察など関係機関の連携について、課題を突きつけた。
拡大する事件から1年がたった現場のアパート(左)にたむけられた花束=2020年6月5日、札幌市中央区
専門家らによる市の検証部会が今年3月にまとめた報告書によると、母親(22)=保護責任者遺棄致死の罪で起訴=の妊娠判明時や出産後の乳幼児健診でのリスク情報、計3回の児相への虐待通告への対応が十分に共有されず、事件を防ぐ機会を逃したとされる。虐待の兆候をつかみ、早期に支援につなげるために、関係機関は日ごろから何に取り組むべきなのか。小さな命を守るために、それぞれの立場で関わる3人に聞いた。
拡大する山本健晴・札幌市児童相談所担当局長(児童相談所長)
まずは、児童福祉の最前線で指揮を執る札幌市児相担当局長(児相所長)に今年4月に就任した山本健晴さん(53)から。
児童相談所は子どもを守る最後のとりでなのに、市民の期待と信頼に応えられなかった。当時、市職員の人事を担う職員部長で、かつて児相にいた私も悔しくて、涙が出ました。事件が起きたのは児相の負けだと、当時からいる職員も感じているようです。
検証報告書では、区役所や警察などとの協働や連携ができておらず、市全体として「他の部署が関わったら自らの守備範囲から一歩引く傾向」がある、と指摘されました。他の機関に引き継ぐと、ほっとする部分があるのはわかる。でもそれではいけないと、えぐっていただいた。組織をまたいで仕事をつないでいくことが大事だと思います。
2回目の虐待通告を受けた時、世帯を特定できないとの理由で安全確認に行きませんでしたが、行くべきだったと思います。安全確認が求められる「通告から48時間以内」が土、日曜にかかるなら、初期調査を委託する外部の児童家庭支援センターに頼むべきでした。3回目の通告では警察から同行を求められましたが、いま同様のことがあれば当然、同行すべきだと考えます。
精神論ではなく、仕組みを変えることが大事です。昨年の事件は、リスクの高いケースの対応を関係機関で協議する「要保護児童対策地域協議会」(要対協)の対象にしていなかった。事務量が多く、心理的にも負担感がある要対協の設置のハードルを下げ、簡素な仕組みにしていきたい。
私も入庁後、親子の分離に関わりました。子どもは虐待されていても、虐待されたという認識をあまり持たず、それが当然と思ってしまう。親から引き離すと、帰りたいと言うのです。子どもからも親からも嫌われ、何のために仕事をしているのかと、当時は思いました。
いまは、大事な子どもの命を守ることが使命と感じています。本当の意味で子どもを守り、事件で失った信頼を回復したい。
子どもや家庭をめぐる様々な問…
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