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 札幌市で昨年6月、池田詩梨(ことり)ちゃん(当時2)が衰弱死した事件は、児童相談所(児相)など市の組織内の情報共有や、行政と警察など関係機関の連携について、課題を突きつけた。

拡大する写真・図版事件から1年がたった現場のアパート(左)にたむけられた花束=2020年6月5日、札幌市中央区

 専門家らによる市の検証部会が今年3月にまとめた報告書によると、母親(22)=保護責任者遺棄致死の罪で起訴=の妊娠判明時や出産後の乳幼児健診でのリスク情報、計3回の児相への虐待通告への対応が十分に共有されず、事件を防ぐ機会を逃したとされる。虐待の兆候をつかみ、早期に支援につなげるために、関係機関は日ごろから何に取り組むべきなのか。小さな命を守るために、それぞれの立場で関わる3人に聞いた。

事件の経緯
 詩梨ちゃんの母親の池田莉菜(22)=保護責任者遺棄致死罪で起訴=と、同居していた交際相手の藤原一弥(25)=傷害致死と保護責任者遺棄致死の罪で起訴=の両被告の裁判員裁判はまだ始まっていない。 事件は2019年6月5日早朝、池田被告の119番通報で発覚。詩梨ちゃんは全身にあざややけどがあり、体重が同年代の半分ほどの6キロ程度だった。起訴状によると、藤原被告は19年5月上旬以降、札幌市の池田被告宅で、詩梨ちゃんを殴ったり踏みつけたりしたほか、たばこの火を押しつけるといった暴行を加え、頭の骨折や硬膜下血腫を負わせたとされる。さらに両被告は5月中旬から、弱った詩梨ちゃんを放置して多臓器不全と低栄養状態に陥らせ、これらの結果、衰弱死させたとされる。

「仕組み変え 信頼回復したい」 山本健晴・札幌市児童相談所担当局長(児童相談所長)

拡大する写真・図版山本健晴・札幌市児童相談所担当局長(児童相談所長)

 まずは、児童福祉の最前線で指揮を執る札幌市児相担当局長(児相所長)に今年4月に就任した山本健晴さん(53)から。

 児童相談所は子どもを守る最後のとりでなのに、市民の期待と信頼に応えられなかった。当時、市職員の人事を担う職員部長で、かつて児相にいた私も悔しくて、涙が出ました。事件が起きたのは児相の負けだと、当時からいる職員も感じているようです。

 検証報告書では、区役所や警察などとの協働や連携ができておらず、市全体として「他の部署が関わったら自らの守備範囲から一歩引く傾向」がある、と指摘されました。他の機関に引き継ぐと、ほっとする部分があるのはわかる。でもそれではいけないと、えぐっていただいた。組織をまたいで仕事をつないでいくことが大事だと思います。

 2回目の虐待通告を受けた時、世帯を特定できないとの理由で安全確認に行きませんでしたが、行くべきだったと思います。安全確認が求められる「通告から48時間以内」が土、日曜にかかるなら、初期調査を委託する外部の児童家庭支援センターに頼むべきでした。3回目の通告では警察から同行を求められましたが、いま同様のことがあれば当然、同行すべきだと考えます。

警察との連携不足
 市の検証報告書によると、事件の約1カ月前の19年5月12日、子どもの泣き声を心配する住民から北海道警に通報があった。この日は世帯を特定できなかったが、翌13日に詩梨ちゃん宅と判明。道警は児相に対し、強制的な立ち入り調査も視野に同行を求めたが、夜間のため職員の態勢が整っていないことを理由に断られた。報告書は、両者の意思疎通が不十分だったうえ、事前に連携方法や役割分担を決めていなかったと指摘した。

 精神論ではなく、仕組みを変えることが大事です。昨年の事件は、リスクの高いケースの対応を関係機関で協議する「要保護児童対策地域協議会」(要対協)の対象にしていなかった。事務量が多く、心理的にも負担感がある要対協の設置のハードルを下げ、簡素な仕組みにしていきたい。

 私も入庁後、親子の分離に関わりました。子どもは虐待されていても、虐待されたという認識をあまり持たず、それが当然と思ってしまう。親から引き離すと、帰りたいと言うのです。子どもからも親からも嫌われ、何のために仕事をしているのかと、当時は思いました。

 いまは、大事な子どもの命を守ることが使命と感じています。本当の意味で子どもを守り、事件で失った信頼を回復したい。

 子どもや家庭をめぐる様々な問…

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