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 新型コロナウイルスの「第2波」が懸念されるなか、石川県の対策は万全か。また私たちの暮らしはどう変わるのか……。ウイルスや感染症の専門家で、4月17日から県の感染症対策本部会議のアドバイザーも務める市村宏・金沢大学教授に話を聞いた。

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 ――県内で経路不明の感染者はほぼいなくなりました。第1波は去りましたか

 感染者数は、潜伏期間や、発症から検査で陽性が確認されるまでの期間を踏まえ、2週間ほど前の人々の行動を反映します。県内では5月14日に緊急事態宣言が解除された後、人の往来が増えましたが、その2週間後も経路不明の感染者は増えず、その状態は今も続いている。県内では、市中にウイルスはいないと考えていいでしょう。

 ――今月19日には東京や神奈川なども含めた全国での移動が容認されます。大丈夫ですか

 感染状況が落ち着いている北陸3県での人々の移動程度なら、問題ないでしょう。新しい生活様式を守りながら普通の生活に戻す「ニューノーマル」は可能だと思います。

 ただ、観光キャンペーンなどで首都圏を中心に来県が増えれば、ウイルスが持ち込まれる危険はあります。7月初旬の感染状況が、首都圏との往来の是非を判断するポイントだと思っています。

 ――再び感染拡大が起きたら対応できますか。第1波では、PCR検査の体制が不十分との声があった

 確かに当初、県内では検査の振り分けや実施、検体を取る時の防護のいずれも十分な体制が整っていませんでした。患者を隔離する病床も足りず、誰が忖度(そんたく)したわけでもないでしょうが、検査を断る例もあったと思います。私が4月中旬に県のアドバイザーになって最初に助言したのは「検査の強化」でした。

 ――国が当初に示した「37・5度の熱が4日続く」という目安も影響したのではないですか

 やや問題のある基準でした。もし、インフルエンザなら、治療薬のタミフルは発症後48時間以内に服用を開始しないと効かないので、4日待たれたら困ります。一番ウイルスを人にうつしやすい発症初期に3、4カ所の医療機関を訪れてしまう患者を多く生んでしまった。

 ――検査態勢は改善しましたか

 最初は検査能力は1日20件ほどでしたが、今月8日に検体採取を集中して行う「いしかわPCR検体採取センター」もでき、1日200件ほどに拡大しています。また、県の6月補正予算でも検査能力の強化が図られています。さらに感染の有無を調べる抗原検査も併用できるようになり、第2波に向けての検査能力は心配ないと思います。

 ――そもそも県内ではなぜ第1波の時に、全国有数の感染者が出たのですか

 世界的に流行し始めた3月、海外から国内に旅行先が移り、交通の便の良い金沢が魅力的に見えたのでしょう。3月下旬に観光客、特に若い人が来県しました。そこに症状のない感染者もいたはずで、感染が拡大したのだと思います。

 ――県内では六つのクラスターも発生しました

 二ツ屋病院のように高齢者が多い施設での感染の危険性が浮き彫りになりました。介護、老人施設では、抱きかかえるといった介助などが必要で、濃厚接触を避けて業務はできないので、ひとたび感染が始まると収めるのが容易ではありません。

 ――今後どう対策をとるべきでしょうか

 病院はもちろん介護施設でも、防護服などの必要な資材を買う費用や危険手当などの支援が必要です。また、県にワーキンググループを設置し、感染症対策の教育を進めたい。一度施設で感染が広がると、その施設だけで対応できないので、大学の研究者などにも呼びかけ、チームで解決する体制を第2波までに作りたいと思っています。

 ――今後も散発的な感染は覚悟すべきでしょうか

 ゼロリスクにするなら人と会わなければいいが、社会が死んでしまいます。クラスターや医療崩壊はだめですが、一定の感染は皆が受け入れないと、ニューノーマルはできません。感染者がゼロにならない東京から感覚が変わってくるかもしれません。「感染するだけならいいよ。でも、広げないで。重症化させないで」。そんな向き合い方がちょうど良いのではないでしょうか。(聞き手・波多野陽)

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 いちむら・ひろし 1956年生まれ。鳥取大医学研究科修了。京都府立医科大助教授を経て、99年から金沢大学医学部(現在の医薬保健研究域医学系)教授。専門はウイルス学。