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 この夏も、甲子園に球音が響くことになった。日本高校野球連盟が10日、春の選抜大会の救済措置として「交流試合」を8月に開催すると発表した。驚き、喜び、そして複雑な思い。春夏の両大会の中止が決まった後の知らせに、球児らは様々な表情を見せた。

 21世紀枠で今春の選抜大会への出場が決まっていた磐城(福島)には、グラウンドでの練習中に知らせが届いた。渡辺純監督(38)が「みんなつらい思いをしたけれど、無念が晴れた。ベストを尽くしていこう」と語りかけると、部員たちはうなずき、目に涙をためて喜びをかみしめた。

 選抜と夏の選手権大会の中止とは別に、磐城にはもう一つの悲しみがあった。一緒に甲子園で戦うはずだった木村保前監督(49)が今春、他校に異動した。選手たちは「木村先生を甲子園に」との思いを胸に、自主練習に打ち込んできた。

 主将の岩間涼星君(3年)のこれまでの言葉に、翻弄(ほんろう)され続けてきた全国の球児たちの思いが透ける。

 選抜出場が決まった日、こう喜んだ。「小学校からの夢がかない、うれしいの一言です」。しかし約50日後、中止が決まる。自分の思いは胸にしまい、「いまの練習は絶対夏につながるから」と仲間を励まし続けた。さらに2カ月後、夏の選手権も中止に。渡辺監督が電話で中止を伝えると「甲子園はなくても、これまでの経験を糧にしたい」。その言葉に、監督も胸が熱くなったという。

 そして突然届いた「甲子園への招待状」に、岩間主将はチームメートにこう呼びかけた。「悔しい思いも悲しい思いもしたけど(3年生は)甲子園で高校野球を終えられる。一日一日を大事にみんなで頑張ろう」

 出場決定の歓喜。大会中止の絶望。夏の選手権も中止の喪失感――。振り回されてきた監督らからは、戸惑いの声も漏れた。

 智弁学園(奈良)の小坂将商(まさあき)監督(42)は、「32校以外のチームのことを考えると複雑な気持ちもある」と語る。天理(奈良)の中村良二監督(51)も、「夏の大会が中止になったことを考えると、試合をしてもいいのかなという気持ちもある」と話した。

 ただ、甲子園の夢がよみがえった選手たちは一様に、笑顔がはじけた。

 創成館(長崎)では午後4時過ぎ、稙田(わさだ)龍生監督(56)がグラウンドのベンチ前に選手たちを集めた。「決まったんよ、甲子園」と切り出すと、選手たちは最初、困惑したような表情だった。よく事情がのみ込めなかったらしい。

 だが、説明を聞くうちに笑顔に変わっていった。練習が始まると、「よっしゃ」と張り切った声に。「こんな元気な選手の声を聞いたのは2、3カ月ぶり」と稙田監督。

 鶴岡東(山形)の佐藤俊監督(48)の言葉が、特に3年生たちの思いを代弁している。「センバツの中止が決まってから、3年生は時計が止まっていた」

 コロナに止められた時計の針が、再び動き始める。