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 中国が掲げる一帯一路構想と、米国のインド太平洋戦略。連載「米中争覇」では双方の衝突を描いた。その背景と現状を、どう見るべきか。インド太平洋構想の必要性を早くから唱えたエリック・セイヤーズ元米太平洋軍司令官特別補佐官と、米中の戦略に詳しい神保謙・慶応大教授に聞いた。(聞き手 編集委員・佐藤武嗣

「インフラや通信、中国以外の選択肢を」

拡大する写真・図版エリック・セイヤーズ氏=本人提供

新アメリカ安全保障センター(CNAS)上級研究員のエリック・セイヤーズ氏
 Eric Sayers 米議会上院軍事委員会専門職員として、同委員会委員長だったジョン・マケイン上院議員を補佐したほか、元太平洋軍司令官特別補佐官も務めた。

 ――米国防総省が昨年、「インド太平洋戦略」を発表した目的は何ですか。

 「米国は過去20年間、中国がよい方向へ向かうと楽観してきた。だが、習近平(シーチンピン)指導部になって以来、中国は日米が70年かけて構築してきた(国際)システムを変えようとしてきた。(軍事面で)対中競争の役割を担う国防総省として、国家安全保障戦略の一部を具体化したということだ」

 ――戦略では、どの地域に注目していますか。

 「中国に対する最大の懸念は隣国などへの影響力の拡大だ。特に東南アジアは(米中の)競合の中心地域だ。米国と中国のどちらにつくかという大きな選択を迫っているわけではない」

 「戦略では安全保障と経済との連携の重要性も指摘している。インフラ投資やサプライチェーン、通信などをめぐる選択が多数あるなかで、(地域諸国が)中国を選ばざるを得ない状況を避け、信頼性と透明性の高い選択肢を提供する」

 ――しかし、米国には中国のような迅速な投資は難しいとの指摘もあります。

 「中国は国家主導のシステムにより、資源を直接的に迅速に各国に投入する。一方、我々は自由市場システムで民間産業や企業に各地域への投資を奨励する。数字だけを見れば、中国に競合できていないと思うかもしれないが、同じ目標に向かって民間企業と政府が協力する官民の戦略としての米国のアプローチを見れば、将来的にはより説得力があると思う」

 「手抜きをして政治的問題化するインフラ建設や開発を国々は望むだろうか。それとも法の支配や各国の法の下で活動する、西側の政府や企業との協力を望むのか。我々はただ傍観し、自由市場が解決するのを望むだけではだめだ。国家安全保障の目的に沿うよう、どのように民間産業に資金投入を促すかを考える必要がある」

「中国、秩序書き換えの道具にしている」

 ――中国は一帯一路の一環で「デジタル・シルクロード」を重視しています。

 「中国は経済力とデジタル覇権を、秩序の書き換えの道具に使っている。デジタル領域(での中国の活動)は有害で懸念材料だ。港湾なら(支援を受ける国の)政府が望めば一夜にして国有化することもできるが、デジタル通信ネットワークはそうはいかない。1年や2年では変更できず、そのコストも大きい。中国のデジタル・シルクロードに対し、より良心的で信頼性のある選択肢を示すことが(我々の)最優先課題になっているのはそのためだ」

 ――中国には経済と軍事を組み合わせて一帯一路を追求する強みもあります。

 「米国のシステムの強みであり、弱みでもあるのは、大きな外交問題で結論を出して新たな方向に動き出すまで非常に時間がかかることだ。(対中戦略をめぐる)新たなコンセンサスの構築に拙速は禁物で、超党派で持続的な道を探る必要がある。対中戦略の新たなコンセンサスができるのにも時間がかかった」

 「米国内では、中国が10年間で積み上げてきたあしき行動によって、その意図するものが、米国の利益にはならないとの認識が大多数を占めるようになった。我々は新たな方向に動き出し、後戻りはしない。課題は、こうしたコンセンサスに沿って、我々がどう(戦略を具体化するのに)責任を果たしていくかだ」

 ――新型コロナウイルスの感染拡大は、米中関係にどう影響するでしょうか。

 「米中は、海上紛争や台湾、香港問題、軍事バランスに加え、5Gや輸出管理、インフラ、サプライチェーンなどの問題で争ってきた。新型コロナは(往来の規制などで)米中の経済関係も変え、二国間対立は拍車がかかっている」

 「問題は各国が対中関係をどう再評価するかだ。サプライチェーンの変化などにとどまるのか。それとも中国との二国間関係(の見直し)など、大きな変化が起きるのか。香港や台湾への中国の強硬な対応に、各国がどんなアプローチをとるかも注目だ。時代の転機が来ることも現実味を帯びてきたと思う」

「対中強硬論、米民主党でも共有」

拡大する写真・図版神保謙・慶応大准教授

慶応大の神保謙教授
 じんぼ・けん 専門はアジア太平洋地域や国際安全保障など。国立台湾大客員准教授や日本国際問題研究所研究員などを経て現職。

 ――中国が掲げる「一帯一路」の特徴は何ですか。

 「米国は安全保障や自由貿易体制、国際金融、国際機関などの国際公共財を提供することで国際秩序をリードしてきた。一方、中国は米国と同じ土俵で挑戦するよりも、権威主義的国家を柔軟に取り込み、経済発展と政治支配のオルタナティブ(新たな選択肢)を提供している。そのため『一帯一路』は、西欧諸国のアプローチより、はるかに早く浸透し、拡大している」

 ――トランプ政権下で米国の対中強硬姿勢が強まったのはなぜでしょう。

 「安全保障の分野で、台頭する中国を牽制(けんせい)していく方向性はこれまでも党派を超えて支持されてきた。だが、ここ数年の最大の変化は、技術競争、対内投資規制、対中投資抑制などの分野で、共和党のみならず、民主党内でもかつてと比較にならないほど対中強硬論が共有されていることだ。中国への関与政策が、中国の民主的発展を促すとの期待が、民主党支持者の間でもしぼんだことも大きい」

 ――米国は日本が最初に掲げた「自由で開かれたインド太平洋」戦略を追認しました。目的は何ですか。

 「中国の軍事的影響力が拡大す…

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