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断層探訪 米国の足元 第一部④

 我々は身につける服を眺め、それを織りなす繊維がどこから来たのか考えることなどない。しかし、ワタが自生しなかった中世欧州の人々は「羊が生える木」から生まれるのだと夢想した。綿は世界中で取引され、技術革新が巨大な富と成長を生む一方、奴隷労働や共同体の崩壊などの副作用をもたらした。その歩みは、現代につながるモノと人間社会との相克を映す。

 18世紀末、綿の繊維とタネを分離する綿繰り機が発明されると、米南部の黒人奴隷労働や無尽蔵の土地と結びつき、綿花は文字どおり「カネのなる木」と化した。19世紀末の南北戦争は、自由貿易を求めた南部と関税による工業の保護を求めた米北部との対決だったが、南部の「自由貿易」は黒人や先住民への暴力的な収奪を前提としていた。

 大著「綿の帝国」を著したハーバード大教授のスベン・ベッカートによると、英国などグローバル市場に向け、綿花を効率よく大量生産する米南部なしに産業革命の劇的な進展はなかった。ベッカートは「資本主義は自然な変化ではなく、暴力と強要を伴う非常に困難な事業だった」と語る。

拡大する写真・図版5月16日、新型コロナウイルスの感染拡大でロックダウン(都市封鎖)を敷いたインドで、綿花の出荷を待つ労働者ら=ロイター

 冷戦終結後、綿花や衣料生産の中心は賃金の安いアジアやアフリカへ移ったが、人権や労働、環境への配慮は先進国より劣悪だった。それを暗黙の前提に、安価な衣服を求める先進国の需要が満たされてきた。

冷戦終結後、世界はグローバル化をひた走り、企業はサプライチェーンの効率化を前提として経済成長を追求してきた。膨大な富が生まれる一方、格差の拡大や地域社会の弱体化は、民主主義を弱めた。新型コロナウイルスがもたらした危機は、時代の転機を告げている。ただ、一国に閉じこもる保護主義も答えにはならない。収縮する市場と、統制色を強める国家とが織りなす「コロナ後」の世界。動揺するサプライチェーンの「断層」で針路を探る人々を訪ね、全5回で報告する。

取り残された地域社会

 アメリカン・ジャイアントは本拠を西海岸のサンフランシスコに置きつつ、カロライナでのサプライチェーン構築にこだわってきた。ウィンスロップは、従来の米企業の姿勢について「血も涙もなく、安い労働と緩い規制を追求し続けてきた」と指摘する。「その結果生まれたのは、東西両岸に住む金融やITエリートが高給を得ながら、その他大勢が取り残された『分断社会』だった。このままでは、社会も経済も深刻に行き詰まるのは明らかだ」

拡大する写真・図版アメリカン・ジャイアントCEOのベイヤード・ウィンスロップ=3月6日、サウスカロライナ州ガフニー、青山直篤撮影

 1995年に発足した世界貿易…

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